ノート:プラトン『国家―正義について』藤沢令夫訳

 

国家〈上〉 (岩波文庫)

国家〈上〉 (岩波文庫)

  • 作者:プラトン
  • 発売日: 1979/04/16
  • メディア: 文庫
 

 

国家〈下〉 (岩波文庫 青 601-8)

国家〈下〉 (岩波文庫 青 601-8)

  • 作者:プラトン
  • 発売日: 1979/06/18
  • メディア: 文庫
 

 

解説 藤沢令夫

1『国家』篇とその執筆年代

 *BC375年頃、プラトン50歳代、アカデメイア設立後10年

2 登場人物について

 *ソクラテス ケパロス:シラクサ生まれ、ペイライエウスの富裕居留民 ポレマルコス:ケパロス長男、ペロポネソス戦後の30人政権下で死刑 トラシュマコス:カルケドン出身の弁論術家 クレイトポン:復古主義の政治家 グラウコン:プラトン兄 アデイマントス:プラトンの長兄 リュシアス:ケパロスの子、弁論術家

3 対話が設定されている年代 *BC430-421? ペロポネソス戦争前期

4 全篇のあらすじと主要区分 *正義とは何か 個人正義の拡大としての国家 統治者の教育、理想国家と哲人政治、哲学教育 不正と不完全国家、正義と幸福 詩歌・演劇

5 この対話篇の主題は何か―表題と副題について *「ポリーテイアー」ポリス国家論、ただし正義論展開の中での

6 哲学的内容―とくに国家論とイデア論・魂論について *総合知・学としての哲学 ソクラテス的問い:徳の定義・知識と善・幸福、善・幸福と魂と徳としての知(学) プラトン的問い:ソクラテスが死なない国家政治論、魂と国家の相似性 イデア論と魂不死の思想、永遠を見つめるリアリスト

7 著作としての意味と必然性ープラトンにとって『国家』篇とは何であったか *プラトンの国家政治思考とソクラテス的哲学知との結合、哲学の内実イデア論の成熟を俟って

 

プラトン哲学=イデア論 ソクラテス哲学=人間的価値の探究姿勢、中身はない、あるいは探究姿勢そのものが哲学(教育) ∴プラトンイデア論が初哲学=理屈づけ

※哲学・学・科学 宗教・神話・伝統・習慣等に基づかない新しい原理・考え方・生き方の探求 アルケー探究、自然科学的アプローチ その後、ソクラテスに始まる人間中心的アプローチ(概念探究) 後期プラトン・新プラトニズム、アリストテレスストア派(ヘレニズム・ローマ時代)では天体的プローチに復帰、以降ルネサンスまで

※ガスリー ソフィストは哲学者ではなく、正統派の引き立て役か

 

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(『国家』全篇の構成)

 

1「前奏曲」―〈正義〉についての幾つかの見解の検討。(第1巻) 

 導入部。(1章/327A-328B) 

 1 ケパロスとの老年についての対話。〈正義〉とは何かという問題へ。(2-5章/328B-331D) 

 2 ポレマルコスとの対話―〈正義〉とはそれぞれの相手に本来ふさわしいものを返し与えることであるという、詩人シモニデスの見解の検討。(6-9章/331E-336A)  *正義とは誰に対しても正しいこと 徳は知識や技術とは異なる性格を持つ

 3 トラシュマコスとの対話。(10-24章/336B-354C) 

  1〈正義〉とは強者(支配階級)の利益になることであるという、トラシュマコスの見解の検討。(12-19章/338A-348B)  *不正が利益をもたらす

  2〈不正〉は〈正義〉よりも有利(得になること)であるか。(20-24章/348B-354C) *正しい人は幸福であり、得である ただし、正義とは何かはわからない

 

※哲学・真の学問(科学)と政治・社会との乖離・対立 不正に加担する世間知、ソフィスト

 

2〈正義〉の定義―国家と個人における。(第2-4巻) 

 1 グラウコンとアデイマントスによる問題の根本的な再提起。(第2巻1-9章/357A-367E) 

 *人々は見せかけに正義を、内実は不正を信奉し利益を得ているのではないか

 2〈国家〉に関する考察―「最も必要なものだけの国家」と「贅沢国家」。国の守護者のもつべき自然的素質。(第2巻10-16章/367E-376E)  *職業、専門家

 3 国の守護者の(情操)教育(パイデイアー)。(第2巻17章-第3巻18章/376E-412B) 

  1 音楽・文芸。(第2巻17章-第3巻12章/376E-403C) 

  (a)何を語るべきか―文学(詩)における話の内容についての規範。(第2巻17章-第3巻5章/376E-392C)  *詩人たちが語る神々の不道徳性(伝統は非道徳的)、冒瀆 神々は善であり不変(変身しない)

  (b) いかに語るべきか―単純な叙述(報告形式)と〈真似〉による叙述(劇形式)。(第3巻6-9章/392C-398B)  *ミメシス(まね、演技)論 まねはしだいに性格となる、習慣は本性と化す

  (c) 歌、曲調、リズム。(第3巻10-11章/398C-401A)  *音楽と本性、品性や節度との関係

  (d) 音楽・文芸による教育の目的。(第3巻12章/401B-403C)  *教育(パイデイアー) 美少年との恋について

  2 体育(および医術) のあり方。(第3巻13-18章/403C-412B)  *アスクレピオスとヘロディコス(病気のお守り) 魂・品性の範型 徳と悪徳(まず善がなければならない) 心身の教育 学芸と体育のバランス

 4 国の守護者についての諸条件。(第3巻19章-第4巻5章/412B-427C) 

  1 守護者の選抜。建国の神話。(第3巻19-21章/412B-415D)  *能力と試練による選抜 大地から生まれる支配者たちの物語(市民は兄弟、平等)

  2 守護者の生活条件、私有財産の禁止。(第3巻22章-第4巻1章/415D-421C) 

  3 守護者の任務。(第4巻2-5章/421C-427C)  *最強の国、富と貧乏 国家の適切な大きさ 教育と養育、秩序と法

 5 国家の〈知恵〉〈勇気〉〈節制〉そして〈正義〉の定義。(第4巻6-10章/27D-434C)  *正義とは自分の適職だけに専心すること、逸脱は不正 職人・商人(生産者)、戦士(補助者)、守護者の3種族

 6 魂の機能の三区分。(第4巻11-15章/434C-441C)  *矛盾律、運動と静止 ※欲望論がわかりにくい 理知・欲望・気概の各部分

 7 個人の〈知恵〉〈勇気〉〈節制〉そして〈正義〉の定義。国家と個人の悪徳の問題へ。 

(第4巻16-19章/441C-445E)  *国家と相似形の個人 正義とは分を守ること

 

3理想国家のあり方と条件、とくに哲学の役割について。(第5-7巻) 

 A 三つのパラドクス(「大浪」)。 

  導入部。(第5巻1-2章/449A-451C)  *議論の前進へのためらい 

  1 第一の「大浪」―男女両性における同一の職務と同一の教育。(第5巻3-6章/451C-457B) 

  2 第二の「大浪」―妻女と子供の共有。戦争に関すること。(第5巻7-16章/457B-471C)  *善悪と苦楽の共有

  3 第三の「大浪」―哲学者が国家を統治すべきこと。(第5巻17-18章/471C-474C)  *理想はまだ実現できていない、これを追求すること 嘲笑と軽蔑の大浪「哲人統治」

 B〈哲学者〉の定義と〈哲学〉のための弁明。 

  1〈哲学者〉とは?―イデア論にもとづくその規定。(第5巻19-22章/474C-480A)  *ではその「哲学」とは何か 真実の知識と思惑・ドクサ 

  2 哲学者は国家の統治に適した自然的素質を有すること。(第6巻1-2章/484A-487A) 

  3 哲学無用論の由来と、現社会における哲学的資質の堕落の必然性、にせ哲学者のこと。(第6巻3-10章/487B-497A)  *「星を見つめる男」=浮世離れ 大衆自身がソフィスト、またソフィストはエセ知者 

  4 しかし哲人統治者の実現は不可能ではないこと。(第6巻11-14章/497A-502C) 

 C 哲人統治者のための知的教育。 

  1「学ぶべき最大のもの」(認識の最高目標)―〈善〉。(第6巻15-17章/502C-506B) 

  2〈善〉のイデア太陽の比喩。(第6巻18-19章/506B-509B)  *善とは何か 視力にとっての光、知力にとっての必須媒介・導き

  3 線分の比喩。(第6巻20-21章/509C-511E)  *像・イメージ、物体、概念・定義、実体・イデア 

  4 洞窟の比喩。(第7巻1-5章/514A-521B)  *上へ登っていった男の運命 生得観念、内在説 政治家教育

  5「魂の向け変え」と「真実在への上昇」のための教育のプログラム。(第7巻6-18章/521C-541B) 

   1「前奏曲」(補助的準備的学科目)としての数学的諸学科。(第7巻6-12章/521C-531C) 

   (a) 数と計算。学ばれるべき学科目は知性の活動を呼び起す性格のものでなければならぬことの確認。(第7巻6-8章/521C-526C) 

   (b) 幾何学。(第7巻9章/526C-527C) 

   (c) 立体幾何学。(第7巻10章/528A-D) 

   (d) 天文学。(第7巻10-11章/527D-528A, 528E-530C) 

   (e) 音楽理論(音階論)。(第7巻12章/530C-531C) 

   2「本曲」としての哲学的問答法(ディアレクティケー)。(第7巻13-14章/531C-535A) 

   3 以上の諸学科をどのような人間に、それぞれいつ、いかにして課するか―学習・研究の年齢と具体的プログラム。(第7巻15-18章/535A-541B) 

 

4不完全国家とそれに対応する人間の諸形態。正しい生と不正な生の比較。(第8-9巻) 

 導入部―当初の問題への復帰。考察の方法と手順。(第8巻1-2章/543A-545C) 

 1 理想国家(優秀者支配制)から名誉支配制への変動。名誉支配制国家と名誉支配制的人間。(第8巻3-5章/545C-550C)  *有徳市民支配

 2 寡頭制国家と寡頭制的人間。(第8巻6-9章/550C-555B)  *有産市民支配

 3 民主制国家と民主制的人間。(第8巻10-13章/555B-562A)  *無産市民支配 自由放漫、自由平等 デマゴギー(屁理屈による自己主張・ミスリード

 4 僭主独裁制国家と僭主独裁制的人間。(第8巻14章-第9巻3章/562A-576B)  *自由無差別の果て、アナーキー 目下やペットの意思に従う主人

 5 幸福という観点から見た正しい生と不正な生の比較。(第9巻4-13章/576B-592B) 

  1 僭主(独裁者) の生は最も不幸であり、優秀者支配制的人間(または哲学者) の生は最も幸福であること。(第9巻4-11章/576B-588A) 

  (a) 国制のあり方と個人のあり方との対応にもとづく証明。(第9巻4-6章/576B-580C) 

  (b) 魂の機能の三区分にもとづく証明。(第9巻7-8章/580C-583A)  *知・勝利・利得を愛する人、学ぶ・名誉・利得の快楽

  (c) 真実の快楽と虚偽の快楽の別にもとづく証明。(第9巻9-11章/583B-588A)  *家畜のように生きる人々

  2〈不正〉が利益になる(得になる)という説は完全に誤りであり、〈正義〉こそが人間にとって真に利益となること。(第9巻12-13章/588B-592B)  *3種の生物からできた人間

 

5詩(創作) への告発。〈正義〉の報酬。(第10巻) 

 A 詩歌・演劇の本質に関する考察。(1-8章/595A-608B)  *哲学の確立のために、詩(=伝統・慣習、「旧」知・非理)との対決

  1〈真似〉(描写)(ミーメーシス)としての詩作について―それが作り出すものは真実(イデア)から遠ざかること第三番目の序列にあり、詩人(作家)は自分が真似て描く物事について知識をもたないこと。(1-4章/595A-602B)  *詩は具体的個別的で、普遍イデアに対して限定的表現(※モノでの思考。概念・観念では?)

  2 詩(創作) の感情的効果について―〈真似〉(描写)としての詩(創作)は魂の劣った部分に働きかけるものであり、人間の性格に有害な影響を与えるものであること。(5-8章/602C-608B)  *悪い感情を育んではならない 詩の誘惑

 B〈正義〉の報酬。(9-16章/608C-621D) 

  1 魂の不死と、魂の本来の姿。(9-11章/608C-612A)  *死に至る病

  2 現世における〈正義〉の報酬。(12章/612A-613E) 

  3 死後における〈正義〉の報酬、エルの物語―大団円。(13-16章/614A-621D) 



訳者注

補注

解説 藤沢令夫

 

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ソクラテス的問答

 定義のあいまいさ ふだん使っていることばのゆるさ、矛盾の分割性、部分否定

  全称と部分の入れ替えによる自己矛盾 不完全性、蓋然性

 徳は知識や技術とは異なる性質を持つ 目的と手段?

 相対主義の否定 絶対主義、理想主義 反ソフィスト

 

人間的立派さとは?

 ソクラテスの徳 概念 ∵人間は人間的社会に生きるのだから。悪法も法

 

姿勢と知恵

 ソクラテスプラトン 生き方そのものと哲学 動く姿と立ち止まる姿 著作を残さない者と残す者・ミネルヴァの梟 イエス、禅者

 

ギリシア哲学史のなぞ

 

プラトン教養主義とイソクラテス実用主義

 人材作り 無用の用、有用の用 絶対主義、相対主義

 プラトンアリストテレスの資質の違い

 

政治家教育の書

 アカデメイア政経

 

古代ギリシア民主制の、現代的リアルさ

 民主制から独裁制へ ヒトラー政権誕生

 

 

プラトンの哲学 (岩波新書)

プラトンの哲学 (岩波新書)

  • 作者:藤沢 令夫
  • 発売日: 1998/01/20
  • メディア: 新書