ノート:森本あんり『異端の時代』

異端の時代――正統のかたちを求めて (岩波新書)

異端の時代――正統のかたちを求めて (岩波新書)

 

21世紀のニヒリズムへの問いかけ

陰謀論」という逃げ道の排除

正統を歩め

 

迂回路のキリスト教史の胴体が大きく、主題の頭とつながりにくい

どっしりとした正統があって初めて自由な異端があり得る

信憑性・自明性・隠蔽された始原

 

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(目次 )

序章 正統の腐蝕―現代世界に共通の問いかけ

1 変質する政党政治

 米大統領選挙に問う正統 *反エリート主義の伝統 「共和党らしさ」への問い 日本の場合 *ポピュリズム 政府と党の二元性 アマチュア政治

2 反知性主義の行方

 批判と形成のバランス *既存の知的権威への反発 権力の衰退 *ナイム『権力の終焉』:あらゆる既成権力の衰退 参入障壁と期待感 異端であることの代償 *みんな違ってみんないい。正統であろうと努力こそ根本悪。自分ファーストの小集団。外からよりも内爆のリスク 正統の生態学 本書の概要と構成

 

第1章 「異端好み」の日本人―丸山眞男を読む

1 「L正統」と「O正統」

 重層的な文献理解 神道史における正統と正理 *『神皇正統記』 「正理」論の貴重な事例 政治と宗教の交錯 正統と異端の通俗イメージ

2 異なる価値秩序の併存

 ギゾーと福沢 文化価値の自立性

3 日本的な「片隅異端」

 正統なき異端 *異端は自らこそ正統だと戦う者。日本は飲み屋で上司の悪口を言うが如くの異端 孤高の例外 *親鸞 単なる「調子はずれ」 *正統なき異端、の自己撞着、低レベル

4 未完に終わった正統論

 正統の融解 より内在的な理由 *「近代主義」の裏返しは日本には近代がないという「欠如論」。世間、遠藤周作 日本仏教との比較 *西欧の正統も固定的・普遍的でなく、異端の方が規範的。日本仏教と同様にアメリカのキリスト教は土着化、アメリカ化

 *日本人は特殊に逃げ込んでいないか。丸山眞男遠藤周作は西欧原理を誤認?

 

第2章 正典が正統を作るのか

1 宗教学の諸前提

 宗教の三要素 *宗教学がキリスト教基準という偏向 聖典と正典

2 書物になる前の聖書

 正統の典拠はどこにあるか *正しさ(正義や真理)はあるか 聖書と伝統 *聖書は聞くもの 旧約聖書の成立 *教派による正典の違い 新約聖書の成立 *カノン(正典)はリストのこと。正統理解→正典の順序。350年ごろのアタナシウス書簡が新旧聖書編集終結宣言

3 正典化の基準

 口伝から文書へ 正典性の判断 正典はO正統ではない 

4 異端が正典を作る

 マルキオンの正典 正典が異端を排除したのか

5 歴史の審判

 異端の興隆と衰退 歴史的宗教であることの意味 *滅びた方が異端、生き残ったものが正統

 

第3章 教義が正統を定めるのか

1 ハルナックの困惑

 キリスト教のヘレニズム化 屈折した愛国心 

2 正典から教義へ

 啓典宗教における正典 教義はなぜ必要か

3 「どこでも、いつでも、誰にでも」

 曖昧さを残す定式 「信じられている」ものこそ正統 *「当然」、常識となっている事柄が正統。既成事実>権利・論理問題。自然法と同じ論理か。正統の自己隠蔽能力

4 根本教義なら正統を定義できるか

 三位一体論とキリスト論 *ハルナックによれば三位一体論やキリスト論は始原に含まず 内に留まる異端 素朴な聖書主義の危険

5 始源も本質を定義しない

 トレルチの本質論 *本質規定は本質形成。すべての歴史は現代史である。鶏と卵、能動と受動、仮説・目的と発見 聖書を超える規範 

6 「祈りの法」と「信仰の法」

 経験から結晶する教義 *信仰の事実・経験から、三位一体論や処女降誕、ロゴス先在論の教義が生まれた 歴史を通して成長する教義 *マリアの無原罪懐胎や被昇天。「祈りの法」が「信仰の法」に発展する 真の権威をもつ正統とは

 

第4章 聖職者たちが正統を担うのか

1 「地の黙した人々」に聞く

 宗教の三つの要素 的外れな「陰謀論」 

2 厳格な性倫理という誤解

 正座の信念かあぐらの信念か *多数派の正統は大衆的。禁欲主義希求など少数の精神的エリートは異端的 最重要教義の陰で キリスト教の性倫理 去勢禁止の歴史的意義 修道院制度のはじまり *殉教・禁欲志向の少数派のために 

3 オリゲネスの後悔

 聖書の正しい読み方 *聖書を読んで自ら去勢 慣行が規程になる *去勢禁止の教義化前

4 高貴なる異端

 ペラギウスの怒り *アウグスティヌスより道徳的、カント的 自由の唯一の確証 

5 凡俗なる正統

 普遍的経験としての原罪 *大衆にとっての原罪 苛烈な平等主義 *神の助けなく自力で運命を拓くプロメテウス-ペラギウス-ルソー

 

第5章 異端の分類学―発生のメカニズムを追う

1 正統の存在論

 教義の制定と法律の制定 教義も正典も後追い *ミネルバ 

2 現代民主主義の酩酊

 今日のペラギウス主義 *トドロフ:自分自身に酩酊する意志の思い上がり。人民、自由、進歩。ポピュリズム新自由主義、政治的メシアニズム。原罪の否定 自由の擬制 *ユートピア主義、千年王国思想、善が悪に変わる 民主主義の暴走 *正統から異端が生じる

3 異端発生のメカニズム

 政治的メシアニズムの肥大化 *善の暴走。正統はミネルバ 異端は選ぶ *真正な、一部分を熱烈に信仰するものが異端

4 分派・異端・異教

 キリスト教もはじめは異端だった イスラム教の場合 漢語としての「異端」 「日本」という統一宗旨 危ういバランス

 

第6章 異端の熱力学―中世神学を手がかりに

1 社会主義体制との比較

 原点回帰の幻想 *原点や源流は曖昧 ソヴィエト社会主義の場合 堀米の正統論 *中世の秘跡

2 ドナティストの潔癖

 寛容か無節操か *迫害で教会に背いた者が帰還後司教に叙階されることの是非 正統教会の傷 *アウグスティヌス秘跡は神の恵みで、誰がしても同じ

3 秘跡論から見る正統

 悪臭にも汚れない光 消えない印 「非合法だが有効」 *事効論、ブラックジャック 教会も神を信じていた *陰謀論の無効性

4 丸山の誤解

 秘跡の客観主義 *正統と異端、客観主義と主観主義、非主観主義(非属人主義)と属人主義 正統の真の担い手 *正統あっての異端か、初めに異端ありか。教職者集団は正統の一部の可視化で、本体はむしろそれを基礎づける広大な全体性 執行部は部分による全体の僭称

5 改革の熱情

 修道院改革から宗教改革へ *叙任権闘争の中で主観・厳格主義を取り込む プロテスタント内のドナティスト *再洗礼派。物化論、事効論

 

第7章 形なきものに形を与える―正統の輪郭

1 絵の本質は額縁にあり

 チェスタトンの正統論 形なきものを定義するには 

2 異端排斥文の定式

 「呪われよ」の二つの実例 否定形の「境界設定型」 *存在論的には異端に先立ち、認識論的には異端により知覚せしめられる 肯定形の「内容例示型」 *排他的になると、ファンダメンタリズム原理主義へ。多様性や自由を失い硬直化し、豊かさを失いやせ細る

3 制約による自由

 「鳥の自由」ではなく *自由と制約の弁証法 自由の創設 *アメリカ革命 憲法の権威はどこにあるのか *権力ではなく権威 正統性の歴史的経験 メイフラワー契約の意義 *自分たちの政府 

4 「複数可算名詞」としての自由

 マサチューセッツ法典 *1641年マサチューセッツ法典(権利章典) なぜ複数形なのか 可能態から現実態へ *事実・正統から権利・立法へ

5 正統の受肉

 永遠の時間への突入 地上に神の国を建設する 此岸的な建設への志向性 信念なき異端

 

第8章 退屈な組織と煌めく個人―精神史の伏流

1 個人の経験が判断の基準に

 100年前のギフォード講演 現代人ジェイムズ

2 自己表現の至高性

 「真正さ」の今日的基準 *「感動した!」「涙が止まらない!」 自己表現としての選挙 客観的意味の喪失 *脱魔術化した世界に意味付与するのは個人

3 普遍化する異端

 「選ばない」という選択 *デフォルト値が正統、選択は異端 宿命から選択へ *現代はプロテスタント病。「やればできる」意志力の崇拝(Can-do-Spirit)。アメリカで重篤。※自己啓発思想(ジェームズ・アレン他) あらかじめ失われた故郷 *バーガー。不安なプロメテウス。選択が異端なら、現代人は選択を強制され、現代は異端が普遍化された時代。正統の居場所もない。正統の腐蝕、消失、異端もホームレス化。ルソー:疎外としての生、神話的過去へのノスタルジー、調和ある世界の回復を希求。

4 個人主義的宗教の煌めき

 魅了されたギフォード卿 *1847年、エマソンエディンバラ講演 仲介なしの直観 *ユニテリアンを超えて、キリストや教会の仲介なしに神と結ぶ エマソンからジェイムズへ

5 反骨性のアイコン

 生真面目な軽薄さ *ルソー? 現代っ子ソロー *ハーバード卒のハックルベリー・フィン 反対するときだけ元気になる *個人主義の宗教化。周囲の賞賛、自己陶酔

6 今日もっともありふれた宗教形態

 「なんちゃって異端」 現代の「神秘主義」類型 *トレルチ:チャーチ、セクト個人主義 「シーライズム」 *シーラ。宗教と化した個人主義。宗教的ではなく霊的と自認する現代人

7 個人主義的宗教の特徴

 御上たたき *「正義」の立場からの容赦のない全否定、炎上現象 無意識の宗教的熱狂 *正統を批判する異端の宗教的正義感。批判者たちは新たな共同秩序は作らない。偶像破壊後は新神殿、理性の宗教が樹立される テイラーのジェイムズ批判 *デュルケム。ジェイムズ批判のテイラーは集団、社会宗教の必要を説く

 

終章 今日の正統と異端のかたち

1 民主主義とポピュリズム

 ポピュリズムは現代の正統か *ポピュリズムは特定の政治的アジェンダに限定した言説 全体を僭称する部分 *ポピュリズムは社会分断を招く。複合性多元性を認めず善悪二元論に還元。多数派となれば自身らは善、反対者は悪となる。 

2 正統性を堪能する人びと

 反知性主義から権威主義へ *専門家ではないアマチュアを強調 宗教的熱情と善悪二元論 *代替宗教としてのポピュリズムマニ教。主体的な世界参加、正統性意識。多数決も部分の意見、時代を超えたより大きな多数者(神?)を代弁できない 

3 信憑性構造としての正統

 理念世界が崩壊するとき *トランプ登場で揺らいでいるのは米大統領職そのもの 軍の正統性 「信仰システム」の危機 *自明性、当然の前提、自己隠蔽、神話、始原

の露呈 すべての契約の前提 *社会契約の毀損、約束が破られる

4 真正の異端を求めて

 全体の部分となる勇気 *アレントやティリヒ、デューラー 正統を襲う異端 *正統は批判に晒される、存在根拠への信頼が支え。ユダヤ教から生まれたキリスト教、正統となる異端

 

引用文献/参考文献

あとがき

 

アメリカ・キリスト教史―理念によって建てられた国の軌跡

アメリカ・キリスト教史―理念によって建てられた国の軌跡

 
反知性主義: アメリカが生んだ「熱病」の正体 (新潮選書)

反知性主義: アメリカが生んだ「熱病」の正体 (新潮選書)