ノート:藤沢令夫『プラトンの哲学』 (岩波新書 赤537)
(目次)
1序章「海神グラウンスのように」―本来の姿の再生を!
プラトンの思想的闘い(ソクラテス、対伝統、哲学) さまざまな解釈と評価 科学主義の支配(自然=物質原理主義) ラッセルの攻撃 ハイデガーとその流派のプラトン論(ローティ、デリダ) 根本的誤解①「物質的自然観」(ヒューレー=マテリアル、プシューケー) 根本的誤解②「形相」と「質料」(アリストテレスの造語) 通俗プラトニズムの淵源(アリストテレス) 本来の姿の再生を
2「眩暈」―生の選び
1ソクラテスの刑死まで
若きプラトン ソクラテスとの出会い 三十人政権への「嫌気」 ソクラテス刑死の衝撃
2 二つの方向を「一本の大道」に!
政治と哲学のはざまで 正しく政治する者の政治 遍歴の終わり
3「魂をもつ生きた言葉」―プラトン哲学の基層としてのソクラテス
1ソクラテスから受けとめたもの
ソクラテス的基層 毒蛇の一咬み ソクラテスの吟味(人間なみ以上の知と人間なみの知) 「知」への構え(求知への姿勢=哲学、知行一致) 使い分けしない「知」(アリストテレスとの違い、トータルな知・本来知・実践知・ソクラテスの知) ほんとうの知者 「徳」概念の根本的転換(伝統的価値観の否定、金銭や名誉が徳ではない、魂の幸福) よく生きること(ただ生きるのではなく「よく」生きること、死を恐れ生き延びるのではなく ※ソクラテスの本気、恐ろしさ。「弁明」を読め!)
2 なぜ「対話篇」なのか
プラトンの不在 中・後期対話篇の特徴(プラトン思想:イデア論、魂論(不死、三分説)、哲人統治論) 対話篇形式への固執 基層としてのソクラテス(ソクラテスとともに考える) 「無知の知」の堅持(問答法) ロゴスのディアロゴス性(対話性) 創作伝統の中の対話篇(叙事詩→抒情詩→悲劇→対話篇、ロゴスの自覚化、ソクラテス対ニーチェ)
4「美しき邁進」―イデア論とプシューケー論
1 「プラトン哲学」への助走
(a) 対決宣言
「哲学」の新たな内実に向けて 「自然の正義」(『ゴルギアス』のカリクレス=ニーチェの自然、反世俗反道徳的、弱肉強食・優勝劣敗) 新たな気構え
(b) イデア論への助走
世俗の道徳への批判(ノモス対ピュシスの図式を超えて) 「何であるか」という問い 答えが却下されることの意味(アリストテレス的定義ではない、何でないかが追求されている ※価値の反相対的発生構造) 四つの含意事項 『メノン』の位置(想起説、知識と思わく)
2 陣形の確立
(a) イデア論の初表明ー「まさに〈美〉であるところのもの」(『饗宴』)
〈美〉のイデア(イデア論は奥義、絶対の美) 〈美〉の知が目ざすべきもの 『饗宴』から『パイドン』へ
イデア論の導入のされ方(既定) イデアの一般化(徳や価値から、数、幾何学、人工物、自然物) 感覚では捉えられない(例:正方形) イデアを想起する 感覚的判別が成立する根拠(知覚判別の規範、普遍と個、類似・相似かつ不同一) 認識を導く規範(なぜ「より美しい」と認識できるのか、帰納ではなく先験的原理 ※パラドキシカル、自己言及的)
(c) 魂と身体、二つの生き方(『パイドン』(2))
魂の清浄化(魂対身体、プシューケー対ソーマ[物] ※身体不浄説、霊肉二元論へ。認識は感覚を排除し魂から、デカルトへ) 魂不死の論証(プラトンの強い思い、ソクラテスの魂への) 魂の二つのあり方(霊肉二元論ではない! 感覚や情念も魂の一部、身体そのものは物質、身体を通じての諸感覚 ※身体は精神に、神経パルスが心に変異するのか。因果があっても別物。二重性、並行性 だからこそ死後も魂は存続する 欲望や快楽は優れて両義的で知もその対象) 知の愛求者と身体の愛求者
(d) 〈物・ソーマ〉的自然観との闘いへ向けてー〈善〉原因とイデア原因(『パイドン』(3))
身体の愛求者の世界観(自然=物質原理主義哲学との決別、第二の航法・航海) アナクサゴラスへの失望(モノ・身体と心は違う) 原因としての〈善〉(物質原理主義=科学主義はトートロジー、実は何も語っていない説明になっていない ※例:DNAと生命) イデア原因論の提示(なぜ美しいのか、美の分有) イデア原因論はトートロジーか(※なぜ犬を犬と分かるのか。イデア、自己言及?) 〈物〉的原因論の排斥(空気等アルケー原理、カテゴリー・属性原理) 残された課題(善とイデア、生成消滅の起動因)
3 《善》とディアレクティケー
(a)「哲人王」宣言から「太陽」の比喩へ。そのメッセージと謎
「国家」の哲人統治論 残された課題との取り組み 「太陽」の比喩 あらゆる判別は価値判断を含む(善イデア・価値は太陽の如くすべてを照らす ※人間の目の二重性、呪われている、バタイユ) 窮極の根源価値《善》(善悪の相対善と絶対善)
(b)「線分」「洞窟」の比喩。教育理念と国家統治の基本原則
「線分」の比喩 二つの探求のあり方(「仮設」は数学の言葉) 問答することの力(「万有の始原」は絶対善、弁証法ではなく問答法) 「洞窟」の比喩 比喩が意味するもの 教育理念と学科目(魂の目の向け変え、見られる世界から思惟される世界へ 数学等の5科→哲学的問答法) 強制されて統治する
4 イリソス川のほとりにて―魂の遍歴とエロース(『パイドロス』)
『パイドロス』の状況設定 二つの企図(弁論術批判と知への真の恋、問答法:総合と分割) 〈動〉の始原としての魂(自己運動、動の始原としてのプシューケー) 御者・善い馬・悪い馬 恋い焦がれる魂 プラトニック・ラブと天上への帰還 遍歴する魂のミュートス
5「汝自身を引き戻せ」―反省と基礎固め
「もっと訓練を積みなさい」(二十歳のソクラテス) イデアの分有をめぐって(『パイドン』での古いイデア定義) 「第三の人間」のアポリアー(アリストテレス命名、定義の無限進行) 常識的思考に絡め取られる(アリストテレス的主語述語命題) 「分有」用語の記述方式の難点 「原範型−似像」の記述方式 パルメニデスの反論の不当性 老パルメニデスの言葉 自分自身を引き戻す(常識のものの見方のしたたかさ、論理のすり替え・詐術)
2 再出発―知覚の徹底分析と〈知識〉(『テアイテトス』)
新たな第一歩(イデア論以前の場に戻して) 「知覚すなわち知識」説(テアイテトス−プロタゴラス相対説、万物の変動流転説) プラトンの戦略(イデア論への反対命題を通しての知覚知識論の再検討再構築) 知覚の基本的事態(知覚・感覚器官と対象、相関相補) 〈物〉的実体の抹消(知覚−対象の独立・因果否定、主述関係の否定、物・個物の否定) 相対性のテシス[命題]に対する批判(各自の相対的真の中で優劣あり、すべての知覚は価値的) 流転性のテシスに対する批判(ヘラクレイトス〜ホメロス、同定不可能な変転) 知覚という認識の範囲(知覚と知識は別物)
6「美しく善き宇宙」ーコスモロジーに成果の集成を見る
宇宙論と自然哲学 コスモロジーの根本原理(生成しない世界と生成する世界、宇宙は後者、イデアの似像) 真実らしい言説・物語(∴自然学は近似的蓋然的確率的、アリストテレスと対蹠的 神話的物語の効用、ヌース:宇宙の造物主) 宇宙の創造(無秩序からできるだけ美しく善きものへ:善イデアの普及) 〈場・コーラ〉の概念の導入(変転する現象界、次々と知覚の場に現れ消えるイデアの似像) 「場の描写」の記述方式(主述命題の基底陳述命題、イデアの似像−場−知覚、アリストテレスはここも誤解=自己の構図内で解釈) 「原因」と「補助原因」の区別(幾何学的原子論、火・空気・水・土の立方体微粒子、補助原因) 万有の起動因プシューケー
2 「ソクラテス以前の哲学」との関係
プシューケーによる統括(始原は生きている物) 原子論の登場(プシューケーを持たない物への還元) プラトンの宇宙論のもつ意味(偏向化した原子論の克服、プシューケー[生命・魂]とソーマ[物質・物]のギリシア哲学の再建) 〈知〉の本来の意義と全一性の回復(ソクラテスのトータルな知) 美しく善き宇宙
7「果てしなき闘い」―現代の状況の中で
プラトン以降の状況 〈物〉主義的世界像の支配 「科学技術」の成立(原子論の系譜、物一元論が科学技術を生んだ) 科学技術の負の波及効果 ”高度”医療技術と倫理 自然環境破壊
あとがき
プラトン著作集の伝承 *ローマのトラシュロス、9×4部=36篇 ステファヌス版(1578年)
プラトンの生涯と家系
ソクラテスの生涯
プラトンの著作の時期区分(主要なもののみ) *文体・内容による プラトン(前427-347年)
・前期 30-40歳 第一回シケリア行(388-7年)前
『ソクラテスの弁明』『クリトン』『エウテュデモス』『プロタゴラス』『カルミデス』『リュシス』『ゴルギアス』『ヒッピアス(大)』『ラケス』『エウテュプロン』『メノン』(以上順不同)
・中期 40-60歳 帰国、アカデメイア開設(387年)後 イデア論
『饗宴』『パイドン』『国家』(厳密には第二巻以降)『パイドロス』(『クラテュロス』もか?)
・後期 60-80歳 第二回シケリア行(367-6年)後 イデア論批判あり
『パルメニデス』『テアイテトス』『ソピステス』『ポリティコス(政治家)』『ピレボス』『ティマイオス』『法律』
「イデア」「イデア論」という言い方について *アリストテレスによる「イデア」論 プラトン自身は固定化を嫌い、多様な言葉遣い(イデア、エイドス、実在、実有、本性、あるもの、真実、真実在等)
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モノと心 異次元
魂、生命 価値、意味
人間・動物・機械 知性(情報処理) 環境適応力
人間にとって無記はない