ノート:ロスリング『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』

FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣

FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣

 

 

(目次)

はじめに

イントロダクション

*P.23 人間の脳(本能)は進化の中で情報に鋭敏に反応するようになっている、うわさ話を信じやすい、ドラマチックな物語を好む

  *ファクトテスト、当てずっぽより低い正答率、先入観あり

 

第1章 分断本能 「世界は分断されている」という思い込み

 *分断、二分法、二項対立(わかりやすさ) 分けないと分からない、境界の曖昧さ、連続性(排中律は不成立) 例:西欧と非西欧、先進国と発展途上国排中律思考)

 *平均値で比較(分布が見えない)、極端(最上層と最下層)で比較、上からの景観(貧困度数が見えない、レベル4の中の貧困とレベル1の貧困の違い等)

 *近代レベル1:10億人、レベル2:30億人、レベル3:20億人、レベル4:10億人、

 

第2章 ネガティブ本能 「世界がどんどん悪くなっている」という思い込み

 *ニュース、話題は「最悪」、「心温まる話」も極端(無事、平安はニュースではない)

 *飢餓的貧困の解消過程は20世紀後半、ほぼ消滅は21世紀のこと

 *特に寿命が伸びた 平均70歳 ※でもどうする? 何のために生きるかだ

 *悪化と良化は両立する ※事態の並列主義

 

第3章 直線本能 「世界の人口はひたすら増える」という思い込み

 

第4章 恐怖本能 「実は危険でないことを恐ろしい」と考えてしまう思い込み

 *見えない恐怖 「史上最悪」の原発事故での放射能による死者はゼロ ※「放射物質」トリチウムを含む「汚染水」 恐怖のDDT(カーソン)は人体に「やや有害」な物質 むしろより重要な事態は一顧だにされず放置されている ※クジラ保全 反捕鯨<反誤獲・魚乱獲 環境問題の本末転倒 ワンピース世界の現実:汚染水による下痢死 海の砂漠化 ウィキペディアの信頼性、欧米中心の世界観・価値観での偏り ※ニュースと同じ極端・最悪志向か、少なくとも全称的ではないと心得よ

 

第5章 過大視本能 「目の前の数字がいちばん重要」という思い込み

 *目の前の命を救うことと、いま見えていないより多くの命を救うこと ニュースになるのは高頻度や重要度ではなく希少性や醜悪さ 

 *世界人口:アメリカ10億、ヨーロッパ10億、アフリカ10億、アジア40億 計70億人 2100年:アメリカ10億、ヨーロッパ10億、アフリカ40億、アジア50億 計110億人

 

第6章 パターン化本能 「ひとつの例にすべてがあてはまる」という思い込み

 *欧米支配の世界は終わりつつある 世界購買地域人口の変動

 *インターネット、グーグルはレベル4の人々のためのツール(視線がレベル4)

 

第7章 宿命本能 「すべてはあらかじめ決まっている」という思い込み

 *文化、価値観は変わる(例:スウェーデンは性的保守国だった、男女同権) アジア・アフリカ人は難民から観光客へ、視線・主体の転換が必要 1%の変化は70年で倍になる

 

第8章 単純化本能 「世界はひとつの切り口で理解できる」という思い込み

 *世界を見る道具も複数必要、ワンツールではだめ 政治思想や体制で経済や制度の良し悪しは決まらない ケースバイケース

 

第9章 犯人捜し本能 「だれかを責めれば物事は解決する」という思い込み

 *ほとんどの場合、物事ははるかに複雑にできている 犯人はあり得ない単純化 現実の仕組みを理解し仕組みを変える努力が必要

 

第10章 焦り本能 「いますぐ手を打たないと大変なことになる」という思い込み

 *原始時代の本能、焦り本能が蠢く ※緊急性>重要性、将来のリスク、緊急警報への慣れ 地球温暖化の阻止のために手段を選ばないこと(煽り立てる)は許されるか? ※手段の尊重(刑事訴訟法公職選挙法等) 特効薬、過激な対策に要注意

 *5つのリスク:パンデミック金融危機、世界大戦、地球温暖化、極度の貧困

 

第11章 ファクトフルネスを実践しよう

 *人類の原始本能、自己防衛機制

 *教育 現代世界についての最新知識、メディアリテラシー

 *ビジネス マーケットは変化している 世界の工場:中国→インド→アフリカ

 *ニュースの転換 日常的な事実を伝える新しいメディア 

 *国内の事実を知っていますか?

 

ファクトフルネスの大まかなルール

おわりに

謝辞

訳者あとがき

付録

脚注

出典

 

-------------------------------------------------

(関連して)

メディアリテラシー

橘玲ルワンダ虐殺 

・マララ・ユスフザイ、ナビラ・レフマン パキスタンタリバン) ムスリム女子教育

・ニュース報道、ノーベル賞、国連活動の欺瞞 学校教育、社会教育

 

二項分割(分断)すると分かりやすい

 例:貧富(相対値) もう1つの思考軸として、絶対値が必要 グラフ自体の底上げ

※世界は永らく貧富レベル1にあった が、それは1ではなく「1.5」 前近代の豊かさ 例:ヨーロッパ前近代、日本江戸時代

※日本 〜明治:1.5 大正〜戦前:2 戦後:3 高度成長後:4

 

世界観の転換

ノート:ドベリ『Think clearly』

Think clearly 最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法

Think clearly 最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法

 

(目次)

 

はじめに

 よい人生を送るために必要な「思考の道具箱」 これがあれば、人生はきっと上向いていく

 

1 考えるより、行動しよう ―「思考の飽和点」に達する前に始める 

 文章がどんどん書けるようになるための秘訣 それ以上長く思い悩んでも一ミリも先に進まない 考えるだけのほうがラク、行動するほうが難しい 何を描きたいかは、描きはじめないとわからない 

 *考えているだけでは現実は一歩も変化しない 動き出すことによって初めて生きた思考も回転し始める

 

2 なんでも柔軟に修正しよう ―完璧な条件設定が存在しないわけ 

 飛行機が「予定ルート」を飛んでいる割合とは? 重要なのは「スタート」ではなく、「修正技術」のほう ものごとがすべて「計画通り」に運ぶことなどない 早いうちに軌道修正した人こそ、うまくいく 

 *自動運転は修正技術 修正を恐れるな 民主主義は最適選択システムではなく、絶えず悪化を回避する最適化・修正システム

 

3 大事な決断をするときは、十分な選択肢を検討しよう ―最初に「全体図」を把握する 

 あなたが「秘書」をひとり採用するとしたら? 短期間にできるだけたくさんの選択肢を試す 私たちが「早い段階」で決断を下してしまう理由 サンプル数が少ないと、最適なものを見つけ出せない 

 *全体を見渡す 邪魔くさいと労を惜しみ間違う また、半端を恐れるな 五秒考える、五分考える、一晩考える

 

4 支払いを先にしょう ―わざと「心の錯覚」を起こす 

 そのイライラは、自分でコントロールできる 心の錯覚のトリック「メンタルアカウンティング(心の会計)」 料金を「前払い」したほうがいい理由 「お金」よりも「ストレス」を節約する 究極のメンタルアカウンティングは修道院で学んだ 起きた出来事の「解釈」は変えることができる 

 *メンタルコントロール

 

5 簡単に頼みごとに応じるのはやめよう ―小さな親切に潜む大きな罠 

 人の頼みを断れない「好かれたい病」の正体 「囚人のジレンマ競技会」で勝利をおさめたのは? 遺伝子が生き残ったのは「しっぺ返し戦略」のおかげ これからはどんな依頼も 「五秒」で決断する 

 *セルフマネジメント(自分自身を管理する)

 

6 戦略的に「頑固」になろう ―「宣誓」することの強さを知る 

 「選択肢はひとつだけ」という状況を自らつくる なぜ彼は、朝三時に出社してまで家族団らんを優先したか 柔軟に対応することは、どうして「不利」なのか? 「ああいう人だから」とわからせたほうが勝ち 

 *2の柔軟性とのかんけいは? 柔軟に対応する部分と頑固にそうしない部分とに分ける 「一度だけ」という誘惑に耐える 人生の信念は曲げない(目的・手段を転倒させない)

 

7 好ましくない現実こそ受け入れよう ―失敗から学習する

 「フライトレコーダー」が全航空機に搭載されたわけ 自分の脳をごまかしてみても、なんにもならない 「失敗の原因」を突き止めるたび、人生は上向く 

 *自分自身を客観視しにくい、他人に失望しても自分にはそうでない 失敗に学ばない人たちが大半だ(寺田寅彦、大津波) 自己欺瞞、希望的観測 破裂するまで問題を放置する 間違いを気づいた時に正さない

天災と国防 (講談社学術文庫)

天災と国防 (講談社学術文庫)

 

 

8 必要なテクノロジー以外は持たない ―それは時間の短縮か? 浪費か?

 あなたの車の「平均速度」から見えてくるもの それは「本当に便利なのか」を厳密に考える 「反生産性」の視点で、生活を検討しなおす 「本当に必要なもの」以外は、思い切って排除する 

 *便利は不便、効率的は非効率 インターネットと情報漏洩、ケータイとムダ話 モモ、禅

 

9 幸せを台無しにするような要因を取り除こう ―問題を避けて手に入れる豊かさ 

 飛行機の操縦をするときに注意を払うことは? 「勝つこと」ではなく「負けないこと」が大事 「否定神学」が私たちに教えてくれること 「人生のマイナス要紫」をはじめから避ける 「何を手に入れたか」ではなく「何を避けるか」

 *否定神学、神でないものを否定することで神を追究していく 勝つ・幸運をつかむより、負けない・不運を避ける

 

10 謙虚さを心がけよう ―あなたの成功は自ら手に入れたものではない 

 バフェットが「卵巣の宝くじ」と呼ぶものとは? すでにあなたは、途方もない幸運に恵まれている 「偶発的な遺伝子の掛け合わせ」で生まれてきた すべては、目に見えない偶然の結果である 

 *自力は0パーセント、両親や環境がなければ何もないから

完全なる投資家の頭の中 ──マンガーとバフェットの議事録

完全なる投資家の頭の中 ──マンガーとバフェットの議事録

 

 

11 自分の感情に従うのはやめよう ―自分の気持ちから距離を置く方法

 「見ているもの」と「感じていること」の違い 「感情の言葉」は「色の言葉」よりも圧倒的に多い あなたの「過去の出来事そのもの」に注目する 自分の感情なんて、まったく当てにならないもの 「感情」は、飛んで来ては去っていく鳥のようなもの 「ネガティブな感情」は自分の意志では取り除けない 

 *自分の感情は自分だけが感じているもの、客観視できない、信用ならない

 

12 本音を出しすぎないようにしよう ―あなたにも「外交官」が必要なわけ 

 本音は「どの程度」オープンにすべきか? 周囲に不快感を与えない「気遣い」が前提 本音をさらけ出さないほうがいい理由 意識的に「二番目の人格」をつくりあげる 

 *人は自分自身のことが一番分かっていない 

 

13 ものごとを全体的にとらえよう ―特定の要素だけを過大評価しない

 マイアミビーチに住んだら「幸福度」はアップする? 「フォーカシング・イリュージョン」に惑わされない 冷蔵庫にビールがなくても私たちは泣き叫ばない 「広角レンズ」を通して、自分の人生を眺める あなたが億万長者なら、どんな生活を送るだろう? 

 *一時の欲望はすぐに過ぎ去る ※ニュースはフォーカシング・イリュージョンでできている

 

14 買い物は控えめにしよう ―「モノ」より「経験」にお金を使ったほうがいい理由 

 車を「所有」する喜びと、車を「運転」する喜び モノの喜びはどんどん小さくなってしまう 郊外の邸宅を手に入れたら、どれくらいうれしいか? 「モノ」の喜びは消えるが、「経験」の喜びは残る 一緒にいて喜びを感じる人を「結婚相手」にする 

 *一時の欲望はすぐに過ぎ去る ※CM・広告もフォーカシング・イリュージョンでできている

 

15 貯蓄をしよう ―経済的な自立を維持する 

 砂漠の中で「一リットルの水」にいくら払うか? 「年収がいくらあれば幸せなのか」を考える 「宝くじの高額当選者たち」は本当に幸せか? 「お金がもたらす幸福度」は何によって決まるのか 「お金との上手な付き合い方」四つのルール 

 *一定水準を超えれば富に意味はない

 

16 自分の向き不向きの境目をはっきりさせよう ―「能力の輪」をつくる 

 「能力の輪」を意識しながらキャリアを築く 魅力的な仕事のオファーが舞い込んできたら? ゲイツジョブズもバフェットも「同じ」だった 「欠点」よりも「能力」のほうに目をむける 

 *執着⇄興味 得意なものに集中する

 

17 静かな生活を大事にしよう ―冒険好きな人より、退屈な人のほうが成功する 

 「証券トレーダーたち」と「バフェット」の対比 「投資家」だけが大きな成功を手にできる理由 なぜ「カローラ」がもっとも売れた車となりえたのか ひとつのことに「長期的」に取り組もう 

 *活動量✕時間 千里の道も一歩から、塵も積もれば山となる サルトルの保守的な日常生活

 

18 天職を追い求めるのはやめよう ―できることを仕事にする 

 自分の使命を一生涯まっとうした偉人たち 「作家になるために生まれてきた」トゥールの話 重点を置くべきは「アウトブット」より「インプット」 「得意」「好き」「評価される」ことを仕事にする 

 

19 SNSの評価から離れよう ―自分の中にある基準を見つける

 ボブ・ディランとグリゴリ・ペレルマンの共通点 「内なるスコアカード」と「外のスコアカード」の違い 他人の評価から自由になったほうがいい理由 気をつけないと「承認欲求の塊」になってしまう 

 *他人の評価で自分の仕事の価値は変わらない

 

20 自分と波長の合う相手を選ぼう ―自分は変えられても、他人は変えられない 

 久しぶりに訪れた場所で感じたこと 「10年前の自分」と「10年後の自分」の変化 私たちの「好み」は驚くほど変わりやすい 自分以外の人間の性格はけっして変えられない 最初から「信頼できる相手」とだけ付き合う 

 *人の性格を変えなければならない関係や仕事は避ける

 

21 目標を立てよう ―人生には「大きな意義」と「小さな意義」がある 

 自分のことを簡潔に説明するのはむずかしい 目標そのものがなければ、達成することはできない 幸福度は「目標を達成できたかどうか」で決まる 「非現実的な目標」を立てても幸せにはなれない 

 *大きな目的や目標は語れないが、人生のスケールに応じたそれらを立てる意義はある

 

22 思い出づくりよりも、いまを大切にしよう ―人生はアルバムとは追うわけ 

人生における「一瞬」とは、何秒だろう? 「あなたは幸せですか?」この質問からわかること ダニエル・カーネマンの「ピーク・エンドの法則」 私たちが「バンジージャンプ」に魅せられる理由 

 *最後のことしか印象に残らない 微分的錯覚 派手なものに目を奪われがち

 

23 「現在」を楽しもう ―「経験」は「記憶」よりも価値がある 

「人生最高の経験」に、いくらまでなら払うか? 記憶に残らなくても、その経験には価値がある 何かの「思い出」を掘り起こそうとしなくていい 夕日の写真を撮るより、夕日そのものを楽しもう 

 *大きさ、スケールの取り違え バランスをとって生きること、極端や片一方だけは破綻する、現在と未来の両方を大事にする 過去・現在・未来のバランス 思い出づくりのための人生は最後は残らない

 

24 本当の自分を知ろう ―あなたの「自分像」が間違っている理由 

 「第一次世界大戦」はセルビアから始まった? 「脳の記憶領域」には限りがある 出来事をつなげて「ストーリー」として記憶をつくる 「日記」 をつけて読み返すことの効用とは? 

 *自己像は作れない、自分は変化し定義できない 運を信じない時代、不運をシステム異常とし誰かの責任にする

 

25 死よりも、人生について考えよう ―人生最後のときに思いをめぐらせても意味がない理由 

 よい死を迎えるよりも、よい人生を過ごす キャリアのピークに亡くなった俳優が印象に残るわけ 脳は「継続した時間」を判断できない 「加齢」と「死」は、よい人生の代価である 

 *死の間際でも長生きでもなく、どれだけ良い人生を過ごしてきた自体が大事

 

26 楽しさとやりがいの両方を目指そう ―快楽の要素と意義の要素 

 「楽しいこと」と「有意戴なこと」、どちらが大切? 「欲求の要素」と「意義の要素」が存在する 「快楽主義的」でない映画がヒットする理由

  *バランスをとる

 

27 自分のポリシーをつらぬこう ー「尊厳の輪」をつくる その1⃣ 

 イギリス将校が送った電報「そうでなくとも」の意味 「どんな事情があっても妥協できないこと」とは? 「尊厳の輪」を小さいままにしておいたほうがいい理由 

 *あえて理屈ではなく

 

28 自分を守ろう ―「尊厳の輪」をつくる その2⃣ 

 その米海軍パイロットは、なぜ捕虜生活に耐えられたのか? 収容所での経験をもとに書かれた本が教えてくれること 「言葉による攻撃」がもっとも不快に感じる 

 *生存者の言葉は「偶然」の成功者の言葉で、失敗者の言葉はそもそも存在しない(生死の分かれ目など学べない) 日常生活社会における「尊厳の輪」への攻撃(マスコミを含めて)

 

29 そそられるオファーが来たときの判断を誤らない ―尊厳の輪」をつくる その3⃣ 

 アルプス山脈シェレネン峡谷の「悪魔の橋」 「悪魔に魂を売り渡す行為」の意味するもの どんなにお金を積まれても他人には渡したくないもの 一万ドルと引き替えに、額に企業名のタトゥーを入れる女性 

 

30 不要な心配ごとを避けよう ―不安のスイッチをオフにする方法 

 どのくらい「臆病」であれば、動物は生きていけるか 「不安感」は生態系にも寿命にも影響を与える 「不安」に対する三つの具体的な対処法 

 

31 性急に意見を述べるのはやめよう ―意見がないほうが人生がよくなる理由 

 脳はどんな質問にも「答え」を見つけ出そうとする 頭の中で「複雑すぎる質問用」のバケツを用意する 質問に「わからない」と答えていい 「軽率に意見を述べる」頻度を極力少なくする

 *自分に関係のないことに、好悪などの直感で正否や善悪などの判断を下さない、発言しない 「意見」は直感や感情のことではない、答えない知性 情報の多さ以上にくだらない意見の過多 

 

32 「精神的な砦」を持とう ―延命の女神の輪 

 学者ボエティウスの最後の著作『哲学の慰め』 「つらい状況を乗り切る」ための四つのアドバイス 考え方の選択は、人間に残された最後の自由 

 *人生のすべては一時的に貸し出されたもの

神の慰めの書 (講談社学術文庫)

神の慰めの書 (講談社学術文庫)

 

 

33 嫉妬を上手にコントロールしよう ―自分を他人と比較しない

 古代ギリシア人も、猿も、「嫉妬」していた! 「自分と同レベルの相手」に嫉妬する 「他人と比較する」行為が、幸せを遠ざける 人生の満足度はそれひとつで決まるわけじゃない 

 *情報公開や知る権利、SNSは嫉妬を生む 階級社会が崩れ平等民主主義の現代は嫉妬の時代

 

34 解決よりも、予防をしよう ―腎明さとは「予防措置」をほどこすこと 

 人生の困難は「解決する」より「避ける」ほうが早い 沈没する映画は観ても、沈没する船には乗りたくない 未然に経営破綻を防いでいるマネージャーはすごい 一週間に一五分、起こりうる「リスク」について考える 

 *真の賢者、優秀者は予め問題や危険を回避するため、問題は起こらず危険にも遭遇せず、見た目には「平凡」な人生を送る 賢明さとはリスクに予防措置を施す力

 

35 世界で起きている出来事に 責任を感じるのはやめよう ―世の中の惨事を自分なりに処理する方法 

 「憤り」を感じたら、どう対処すればいいのか? 「個人でできることには限界がある」と忘れない 「時間」ではなく、「お金」を寄付しよう 見聞きするニュースの量を「制限」しよう 「無責任」でいることは、けっして悪いことではない 

 *そのニュースを知ってどうするのか、どうなるのか そのボランティアは自己満足ではないのか、気持ちと生産性は違う

 

36 注意の向け方を考えよう ―もっとも重要な資源との付き合い方 

 「アラカルトメニュー」を頼んだほうが幸せ? 成功の一番の理由は「フォーカス」である 「注意の向け方を間違えない」ための五つのポイント どこに注意を向けるかで、幸せを感じるか決まる 

 *クーポン券、食べ放題は「得」か? 得は幸せか? プッシュかプルか 主人か奴隷か(ヘーゲル) 情報の贈り物か略奪か(モモ) 自分の注意(集中、取り組みの微分形、積分すればテーマ、生きがい)・時間・お金は重要な資源 無礼な情報は暴力である(エピクテトス

 

37 読書の仕方を変えてみよう ―読響効果を最大限に引き出す方法 

 読んだ本の内容をほとんど思い出せない私たち よい本を選んで「続けて二度読む」ことのすすめ 「読替効果」を最大限に引き出す四つの方法 

 

38 自分の頭で考えよう ―イデオロギーを避けたほうがいい理由 

 「知識の錯覚」と呼ばれる現象とは? 自分の意見は、周りの影響のもとにできている 「反論の余地のないもの」には注意する 自分の頭で考え、自分の言葉で話そう 

 

39 「心の引き算」をしよう ―自分の幸せに気づくための戦略 

 映画「素晴らしき哉、人生!」が教えてくれること 「その状況」では、どれくらい幸せを感じるか? 宝くじが当たっても「六か月」で幸福感は消滅する 「銀メダリスト」の幸福度が低いのはなぜか? 

 *今あること、幸福の感じ方 存在の有り難さ

 

40 相手の立場になってみよう ―「役割交換」することのメリット 

 「プログラマー」と「顧客サービス担当者」の対立 シンドラー社の一年目の社員全員が行う業務とは? できるだけ質のよい「小説」をたくさん読むべき理由 

 

41 自己憐憫に浸るのはやめよう ―過去をほじくり返すことが無意味なわけ 

 道化師カニオが歌うアリア「衣装をつけろ」 「自分はかわいそう」と思うのは大きな間違いのもと 何かを「過去の出来事のせい」と考えるのはやめる 過去が不幸だとしても、いまも不幸でいる必要はない 

 *現在の不幸、というより不如意を他人のせいにしようとする 歴史、過去、社会、個人的には両親や環境 人生は完璧ではないという事実を受け入れよう

 

42 世界の不公正さを受け入れよう ―自分の日常生活に意識を集中する 

 あなたは、どちらのミステリを読みたいか? 「ヨブ記」が私たちに教えてくれること 「よい行いは、最後には報われる」わけではない 世界に公正さを保っためのシステムは存在しない 

 *世界に公正さを保つシステム、また不公正にするシステムも存在しない、そもそも世界にシステムはない(神はいない、善悪は保障されていない)

 

43 形だけを模倣するのはやめよう ―カーゴ・カルトの犠牲にならない 

 戦争が終わった後、島民たちが行った儀式とは? 「カーゴ・カルト」の罠に陥ってしまう人たち バーカーを着てもザッカーバーグにはなれない 中身のともなわないF形式主義」を見抜こう 

 

44 専門分野を持とう ―「多才な人」より「スペシャリスト」を目指す  

 「専門知識」が増えるほど、「一般教養」は減るのか? 石器時代は「多才」でなければ生きられなかった 「他人のレース」で勝とうとしなくていい 

 

45 軍拡競争に気をつけよう ―競争が激しいところにわざわざ飛び込まない 

 進化しつづけなければ、生き残ることはできない 会社を興したのは「競合他社ゼロ」だったから 「競争」に巻き込まれないようにする 

 

46 組織に属さない人たちと交流を持とう ―組織外の友人がもたらしてくれるもの  

 若きスピノザに布告された「破門状」とは? 「どこにも属さない部外者」が変革を起こす 組織に属さないことの「メリット」とは? 「片方の足」は社会の組織の中に固定しておく

 

47 期待を管理しよう ―期待は少ないほうが幸せになれる 

 期待して参加した年越しパーティーの結末 「必然」「願望」「期待」どれに当たるかを見きわめる 人間が手に入れたいと願うものは「取るに足りない好み」 私たちの「期待」をあおるさまざまなもの 期待を一0段階で「評価」する習慣をつける 

 *義務・必然、願望・目標、希望・期待、どれか? 

 

48 本当に価値のあるものを見きわめよう ― あらゆるものの90パーセントは無駄である 

 「スタージョンの法則」が教えてくれること 「90パーセントはがらくた」と思っているほうが幸せ ほとんどのものを「無視」してかまわない 本当に価値のあるものは「わずか」である 

 *世の中の90%はカス ただし自分の頭の中も同じ 価値あるものかそうでないかを見極めろ、迷うものなら後者だ

 

49 自分を重要視しすぎないようにしよう ―謙虚であることの利点 

 「人名」がついた大通りを歩きながら思うこと 遺伝子を次世代に残せるのは、どちらのタイプ? 「自分を重要視する度合い」は低いほうがいい 自信過剰になると、判断ミスを犯しやすくなる 「謙虚」でいたほうが生きやすい理由 

 

50 世界を変えるという幻想を捨てよう ―世界に「偉人」は存在しない理由 

 私たちには「世界を変える力」があるのか? 「フォーカシング・イリュージョン」と「意図スタンス」 出来事の背後には必ず「誰かの意図」があるのか? 歴史をつくった「人物」などいない 

 *人やものの往来で自然と道ができるように歴史はできてきた 「神」はいない

 

51 自分の人生に集中しよう ―誰かを「偉人」に仕立てあげるべきではない理由 

 鄧小平は、どんな経緯で改革を行ったのか その発明者がいなかったら、その技術は生まれない? 大事なのは「漕ぎ方」よりも「ボートの機能」のほう もっとも集中すべきなのは、あなた自身の人生 

 *偉人や英雄は時代の産物、主人が奴隷で奴隷が主人(ヘーゲルは転倒している) 個人ではなくただ進化・歴史がある(マット・リドレー)

 

52 内なる成功を目指そう ―物質的な成功より内面の充実のほうが大事なわけ 

 「フォーブスリスト」に掲載されているのは成功者? 「成功の定義」は時代によって変わる 内なる成功とは「平静な心」を手に入れること 基地で一番裕福な人間になるより、いま人生を充実させる 

 *アタラクシア(心の平安) ※仏教

 

おわりに

 *われわれの遺伝子と思考は石器時代(農業革命以前)のためのもの 3つの歯車:最新の心理学研究(実証研究)、ストア主義(知恵、叡智)、バリュー投資家の思考(実践的ノウハウ)

 

謝辞

訳者あとがき 

付録

 

------------------------------------------

人生の処方箋 現代のエピクロスストア派の書 モンテーニュのエセー

 

気持ちを贅沢に生きよう 贅沢な生活はモノだらけの生活ではない

 自分は豊かだ幸せだと思える生活

 気持ちにちょっと余裕をもって、気持ちをちょっとオシャレに過ごすべし

 

古代ギリシア 運命の女神フォルトゥナ 救済前のヨブ

現代 神→システム 合理性の保証 救済されたヨブ 死後の保証 陰謀論

 

※あれかこれかの二者択一ではなく、あれとこれの並列思考で現実対処せよ

 (すべてではない、必要最小限への取捨選択は必要。排中律は非現実的)

 現在と未来の両方を大切にする、両方が必要 

エピクロス―教説と手紙 (岩波文庫 青 606-1)

エピクロス―教説と手紙 (岩波文庫 青 606-1)

 
エピクロスとストア (Century Books―人と思想)

エピクロスとストア (Century Books―人と思想)

 
自省録 (岩波文庫)

自省録 (岩波文庫)

 
物の本質について (岩波文庫 青 605-1)

物の本質について (岩波文庫 青 605-1)

 

 

ノート:森本あんり『異端の時代』

異端の時代――正統のかたちを求めて (岩波新書)

異端の時代――正統のかたちを求めて (岩波新書)

 

21世紀のニヒリズムへの問いかけ

陰謀論」という逃げ道の排除

正統を歩め

 

迂回路のキリスト教史の胴体が大きく、主題の頭とつながりにくい

どっしりとした正統があって初めて自由な異端があり得る

信憑性・自明性・隠蔽された始原

 

------------------------------------------

(目次 )

序章 正統の腐蝕―現代世界に共通の問いかけ

1 変質する政党政治

 米大統領選挙に問う正統 *反エリート主義の伝統 「共和党らしさ」への問い 日本の場合 *ポピュリズム 政府と党の二元性 アマチュア政治

2 反知性主義の行方

 批判と形成のバランス *既存の知的権威への反発 権力の衰退 *ナイム『権力の終焉』:あらゆる既成権力の衰退 参入障壁と期待感 異端であることの代償 *みんな違ってみんないい。正統であろうと努力こそ根本悪。自分ファーストの小集団。外からよりも内爆のリスク 正統の生態学 本書の概要と構成

 

第1章 「異端好み」の日本人―丸山眞男を読む

1 「L正統」と「O正統」

 重層的な文献理解 神道史における正統と正理 *『神皇正統記』 「正理」論の貴重な事例 政治と宗教の交錯 正統と異端の通俗イメージ

2 異なる価値秩序の併存

 ギゾーと福沢 文化価値の自立性

3 日本的な「片隅異端」

 正統なき異端 *異端は自らこそ正統だと戦う者。日本は飲み屋で上司の悪口を言うが如くの異端 孤高の例外 *親鸞 単なる「調子はずれ」 *正統なき異端、の自己撞着、低レベル

4 未完に終わった正統論

 正統の融解 より内在的な理由 *「近代主義」の裏返しは日本には近代がないという「欠如論」。世間、遠藤周作 日本仏教との比較 *西欧の正統も固定的・普遍的でなく、異端の方が規範的。日本仏教と同様にアメリカのキリスト教は土着化、アメリカ化

 *日本人は特殊に逃げ込んでいないか。丸山眞男遠藤周作は西欧原理を誤認?

 

第2章 正典が正統を作るのか

1 宗教学の諸前提

 宗教の三要素 *宗教学がキリスト教基準という偏向 聖典と正典

2 書物になる前の聖書

 正統の典拠はどこにあるか *正しさ(正義や真理)はあるか 聖書と伝統 *聖書は聞くもの 旧約聖書の成立 *教派による正典の違い 新約聖書の成立 *カノン(正典)はリストのこと。正統理解→正典の順序。350年ごろのアタナシウス書簡が新旧聖書編集終結宣言

3 正典化の基準

 口伝から文書へ 正典性の判断 正典はO正統ではない 

4 異端が正典を作る

 マルキオンの正典 正典が異端を排除したのか

5 歴史の審判

 異端の興隆と衰退 歴史的宗教であることの意味 *滅びた方が異端、生き残ったものが正統

 

第3章 教義が正統を定めるのか

1 ハルナックの困惑

 キリスト教のヘレニズム化 屈折した愛国心 

2 正典から教義へ

 啓典宗教における正典 教義はなぜ必要か

3 「どこでも、いつでも、誰にでも」

 曖昧さを残す定式 「信じられている」ものこそ正統 *「当然」、常識となっている事柄が正統。既成事実>権利・論理問題。自然法と同じ論理か。正統の自己隠蔽能力

4 根本教義なら正統を定義できるか

 三位一体論とキリスト論 *ハルナックによれば三位一体論やキリスト論は始原に含まず 内に留まる異端 素朴な聖書主義の危険

5 始源も本質を定義しない

 トレルチの本質論 *本質規定は本質形成。すべての歴史は現代史である。鶏と卵、能動と受動、仮説・目的と発見 聖書を超える規範 

6 「祈りの法」と「信仰の法」

 経験から結晶する教義 *信仰の事実・経験から、三位一体論や処女降誕、ロゴス先在論の教義が生まれた 歴史を通して成長する教義 *マリアの無原罪懐胎や被昇天。「祈りの法」が「信仰の法」に発展する 真の権威をもつ正統とは

 

第4章 聖職者たちが正統を担うのか

1 「地の黙した人々」に聞く

 宗教の三つの要素 的外れな「陰謀論」 

2 厳格な性倫理という誤解

 正座の信念かあぐらの信念か *多数派の正統は大衆的。禁欲主義希求など少数の精神的エリートは異端的 最重要教義の陰で キリスト教の性倫理 去勢禁止の歴史的意義 修道院制度のはじまり *殉教・禁欲志向の少数派のために 

3 オリゲネスの後悔

 聖書の正しい読み方 *聖書を読んで自ら去勢 慣行が規程になる *去勢禁止の教義化前

4 高貴なる異端

 ペラギウスの怒り *アウグスティヌスより道徳的、カント的 自由の唯一の確証 

5 凡俗なる正統

 普遍的経験としての原罪 *大衆にとっての原罪 苛烈な平等主義 *神の助けなく自力で運命を拓くプロメテウス-ペラギウス-ルソー

 

第5章 異端の分類学―発生のメカニズムを追う

1 正統の存在論

 教義の制定と法律の制定 教義も正典も後追い *ミネルバ 

2 現代民主主義の酩酊

 今日のペラギウス主義 *トドロフ:自分自身に酩酊する意志の思い上がり。人民、自由、進歩。ポピュリズム新自由主義、政治的メシアニズム。原罪の否定 自由の擬制 *ユートピア主義、千年王国思想、善が悪に変わる 民主主義の暴走 *正統から異端が生じる

3 異端発生のメカニズム

 政治的メシアニズムの肥大化 *善の暴走。正統はミネルバ 異端は選ぶ *真正な、一部分を熱烈に信仰するものが異端

4 分派・異端・異教

 キリスト教もはじめは異端だった イスラム教の場合 漢語としての「異端」 「日本」という統一宗旨 危ういバランス

 

第6章 異端の熱力学―中世神学を手がかりに

1 社会主義体制との比較

 原点回帰の幻想 *原点や源流は曖昧 ソヴィエト社会主義の場合 堀米の正統論 *中世の秘跡

2 ドナティストの潔癖

 寛容か無節操か *迫害で教会に背いた者が帰還後司教に叙階されることの是非 正統教会の傷 *アウグスティヌス秘跡は神の恵みで、誰がしても同じ

3 秘跡論から見る正統

 悪臭にも汚れない光 消えない印 「非合法だが有効」 *事効論、ブラックジャック 教会も神を信じていた *陰謀論の無効性

4 丸山の誤解

 秘跡の客観主義 *正統と異端、客観主義と主観主義、非主観主義(非属人主義)と属人主義 正統の真の担い手 *正統あっての異端か、初めに異端ありか。教職者集団は正統の一部の可視化で、本体はむしろそれを基礎づける広大な全体性 執行部は部分による全体の僭称

5 改革の熱情

 修道院改革から宗教改革へ *叙任権闘争の中で主観・厳格主義を取り込む プロテスタント内のドナティスト *再洗礼派。物化論、事効論

 

第7章 形なきものに形を与える―正統の輪郭

1 絵の本質は額縁にあり

 チェスタトンの正統論 形なきものを定義するには 

2 異端排斥文の定式

 「呪われよ」の二つの実例 否定形の「境界設定型」 *存在論的には異端に先立ち、認識論的には異端により知覚せしめられる 肯定形の「内容例示型」 *排他的になると、ファンダメンタリズム原理主義へ。多様性や自由を失い硬直化し、豊かさを失いやせ細る

3 制約による自由

 「鳥の自由」ではなく *自由と制約の弁証法 自由の創設 *アメリカ革命 憲法の権威はどこにあるのか *権力ではなく権威 正統性の歴史的経験 メイフラワー契約の意義 *自分たちの政府 

4 「複数可算名詞」としての自由

 マサチューセッツ法典 *1641年マサチューセッツ法典(権利章典) なぜ複数形なのか 可能態から現実態へ *事実・正統から権利・立法へ

5 正統の受肉

 永遠の時間への突入 地上に神の国を建設する 此岸的な建設への志向性 信念なき異端

 

第8章 退屈な組織と煌めく個人―精神史の伏流

1 個人の経験が判断の基準に

 100年前のギフォード講演 現代人ジェイムズ

2 自己表現の至高性

 「真正さ」の今日的基準 *「感動した!」「涙が止まらない!」 自己表現としての選挙 客観的意味の喪失 *脱魔術化した世界に意味付与するのは個人

3 普遍化する異端

 「選ばない」という選択 *デフォルト値が正統、選択は異端 宿命から選択へ *現代はプロテスタント病。「やればできる」意志力の崇拝(Can-do-Spirit)。アメリカで重篤。※自己啓発思想(ジェームズ・アレン他) あらかじめ失われた故郷 *バーガー。不安なプロメテウス。選択が異端なら、現代人は選択を強制され、現代は異端が普遍化された時代。正統の居場所もない。正統の腐蝕、消失、異端もホームレス化。ルソー:疎外としての生、神話的過去へのノスタルジー、調和ある世界の回復を希求。

4 個人主義的宗教の煌めき

 魅了されたギフォード卿 *1847年、エマソンエディンバラ講演 仲介なしの直観 *ユニテリアンを超えて、キリストや教会の仲介なしに神と結ぶ エマソンからジェイムズへ

5 反骨性のアイコン

 生真面目な軽薄さ *ルソー? 現代っ子ソロー *ハーバード卒のハックルベリー・フィン 反対するときだけ元気になる *個人主義の宗教化。周囲の賞賛、自己陶酔

6 今日もっともありふれた宗教形態

 「なんちゃって異端」 現代の「神秘主義」類型 *トレルチ:チャーチ、セクト個人主義 「シーライズム」 *シーラ。宗教と化した個人主義。宗教的ではなく霊的と自認する現代人

7 個人主義的宗教の特徴

 御上たたき *「正義」の立場からの容赦のない全否定、炎上現象 無意識の宗教的熱狂 *正統を批判する異端の宗教的正義感。批判者たちは新たな共同秩序は作らない。偶像破壊後は新神殿、理性の宗教が樹立される テイラーのジェイムズ批判 *デュルケム。ジェイムズ批判のテイラーは集団、社会宗教の必要を説く

 

終章 今日の正統と異端のかたち

1 民主主義とポピュリズム

 ポピュリズムは現代の正統か *ポピュリズムは特定の政治的アジェンダに限定した言説 全体を僭称する部分 *ポピュリズムは社会分断を招く。複合性多元性を認めず善悪二元論に還元。多数派となれば自身らは善、反対者は悪となる。 

2 正統性を堪能する人びと

 反知性主義から権威主義へ *専門家ではないアマチュアを強調 宗教的熱情と善悪二元論 *代替宗教としてのポピュリズムマニ教。主体的な世界参加、正統性意識。多数決も部分の意見、時代を超えたより大きな多数者(神?)を代弁できない 

3 信憑性構造としての正統

 理念世界が崩壊するとき *トランプ登場で揺らいでいるのは米大統領職そのもの 軍の正統性 「信仰システム」の危機 *自明性、当然の前提、自己隠蔽、神話、始原

の露呈 すべての契約の前提 *社会契約の毀損、約束が破られる

4 真正の異端を求めて

 全体の部分となる勇気 *アレントやティリヒ、デューラー 正統を襲う異端 *正統は批判に晒される、存在根拠への信頼が支え。ユダヤ教から生まれたキリスト教、正統となる異端

 

引用文献/参考文献

あとがき

 

アメリカ・キリスト教史―理念によって建てられた国の軌跡

アメリカ・キリスト教史―理念によって建てられた国の軌跡

 
反知性主義: アメリカが生んだ「熱病」の正体 (新潮選書)

反知性主義: アメリカが生んだ「熱病」の正体 (新潮選書)

 

 

ノート:『エピクロス―教説と手紙』

エピクロス―教説と手紙 (岩波文庫 青 606-1)

エピクロス―教説と手紙 (岩波文庫 青 606-1)

 

 

訳:出隆/岩崎允胤

 

(目次)

 

ヘロドトス宛の手紙 *小摘要

 序

 1哲学研究の方法上の規則 *規準論

  1語の最初の意味 *先取観念 2判定の基準 *感覚は過つことがない

 2全宇宙とその構成要素

  1全宇宙の不生成不消滅なこと *パルメニデス原則

  2物体と場所 *物体(原子)と空虚(空間)

  3全宇宙の限りないこと *数も広がりにおいても無限宇宙

  4原子の形状の相違 *人間理解を超えるほど多くある

  5原子の運動 *原子の偏倚(クリナメン)降り乱れる原子の雨(※アルチュセール)、気体・液体・固体

  6世界の数の限りないこと *無限宇宙、類似あるいは非類似世界 

 3感覚

  1視覚 *映像、その微細さと速さ、その生成、視覚の成立、その真偽 *視覚の像は固体や事物からの思想の速さの流出物(思想は原子の最速運動)

  2聴覚 *事物からの流体運動

  3嗅覚 *音と同様

 4原子

  1特有性―形状、重さ、大きさ *原子は性質を持たず不消滅で転化しない さまざまな大きさ

  2原子の部分 *無限分割はできない 感覚における最小限・

識閾 原子における最小限・極限

  3原子の運動 *空虚中では重さにかかわらず、衝突するまで有限等速運動 合成体内+えの原子運動 合成体の運動

 5霊魂

  1その組成 *原子から成る微細な物体 風、熱に似る

  2感覚の原因、霊魂と肉体の関係 *感覚は霊魂と肉体の結合によって生み出された偶発性

  3霊魂は非物体的なものではない *空虚など非物体は働きかけも働きを受けることもできない

 6本属性と偶発性

  1本属性 *形状、色、大きさ、重さなど

  2偶発性 *一時的な状態 3時間 *特別視しないこと 偶発性

 7もろもろの世界の生成と消滅、形状、そこでの存在物 *無限宇宙も同原理で同様な世界が広がっている

 8文明の進歩と言語の起源 *自然から文明へ

 9天界・気象界の事象

  1神的な原因の除去 *至福で不死の天体運動に神は不要

  2星の本性についての認識、および幾通りもの原因によって起こる事象についての認識 *天体認識による至福、平静な心境(アタラクシア)、幾通りもの説明の仕方を受け入れること

 10霊魂の動揺の原因とその除去 *天文現象に意志を持ち込んだり死後にあらぬ不安を抱いたりせず、真理を探究しアタラクシアへ

 結び *

 

ピュトクレス宛の手紙 *偽書、ただし真正の内容を伝える

 序

 1自然研究の目的と方法 *物体のそれと違い、唯一の説明をしない 多様な原因があり、多様な説明に留める 自然研究の目的はただアタラクシアにある ※世界についての唯物論的説明、ただし確証できないことを決めつけない、あり得る可能性を誠実に羅列するだけ 神秘的な説明は無用

 2世界 *世界は宇宙の一部分、他に多くの世界がありうる

 3太陽、月、その他の星

  1生成、構造、大きさ *天体はこの世界の中で物質的に形成された 2昇りと沈み 3運動 4回帰 5月 満ち欠け、光、表面 6日食と月食 7周期 8夜と昼の長さ 9天候の前兆

 4気象

  1雲 2雨 3雷鳴 4稲妻 5稲妻は雷鳴より早く進む 6雷 7暴風 8地震 9火山? 10雹 11雪 12露と霜 13氷 14虹 15月の暈

 5天界の事象―再説

  1彗星 2恒星 3遊星と規則的な星 4星の速さの違い 5流星 6動物の示す天候の前兆

 結び

 

メノイケウス宛の手紙

 序、哲学の勧め *老いも若きも愛知=哲学が必要、霊魂の健康を、幸福を得るため 

 1美しく生きるための基本原理

  1神々の本性 *神々は不死で至福で存在するが、決して人間的ではない 2死 *死は生ではない、故に生者にも死者にも経験できず問う意味がない 生をただ快く生きるのみである 長寿も自死も意味がない ※食事 未来は思い通りではないが、期待してはいけないということでもないのだ 健全なプラグマティズム、禅

 2倫理説

  1行為の動機および目的としての快 *欲望についての省察 身体の健康と心境の平静が生の目的 苦しみのない快が生の動機であり目的 快は第一の生まれながらの善 2快と苦しみ、選択と忌避 *快苦を短絡的に考えてはならない、選択と忌避が必要 3自己充足 *足るを知ること 不快や苦しみが取り除かれればそれが快 4真の快 *自堕落の快楽主義ではない 素面の思考 5思慮 *思慮こそ尊い 運を認めつつ運命論に陥らぬこと 人は幸福に生きることができる

 結び *もはや神の如く(※「なぜ神か」と解説者)

 

主要教説

 *思慮と快 神話と自然研究 正義の相対性

 

断片

(その一)

 *生の一回性と永遠の議論 相対的な小悪も悪、善ではない SNSの俗物としての賞賛

(その二) 

 *感動、喜び、美などを受け入れる現実主義 善の基本は胃袋の快 不正は快ではなく臆見に基づく 大きな悪を避ける 大きな快のために苦しみに耐えることは良い、より苦しまないために快を控えることは有益 肉体は大きな悪ではない、すべては環境のせいではない

 

エピクロスの生涯と教説

 1エピクロスの生涯

 2エピクロスの教説 *静的な快:心境の平静と肉体の無苦 動的な快:喜びや満悦 霊魂の快苦の方が肉体のそれより大

 

解説 ※秀逸

文献

索引

 

-------------------------------------------------

心の平安と唯物論(無「神・ゴッド」論)

 

自然と人間文化 イオニア学派プラトンイデア 相対主義と絶対主義

 プラグマティズム

合理・理屈・納得を求める人間性

 人格神 合理性だけでなく、善悪など価値を含めている

 アインシュタインの神 法則の神

 

 

物の本質について (岩波文庫 青 605-1)

物の本質について (岩波文庫 青 605-1)

 
エピクロスとストア (Century Books―人と思想)

エピクロスとストア (Century Books―人と思想)

 
エピクロス哲学 (文庫クセジュ 291)

エピクロス哲学 (文庫クセジュ 291)

 
エピクロスの園のマルクス (叢書・ウニベルシタス)

エピクロスの園のマルクス (叢書・ウニベルシタス)

 
エピクロスの園 (岩波文庫)

エピクロスの園 (岩波文庫)

 

 

ノート:市田良彦『ルイ・アルチュセール―行方不明者の哲学』

 アルチュセール:1918-1990 65年 2つのマルクス論 80年 妻殺害 統合失調症

(目次)
第一章 行方不明者の生涯
一 理論と経験
 2つの峰 哲学を「捏造」する 
二 落差と眩暈―青年期
 「私」は二人いる 「行方不明者」になる 「暗い夜」(神秘主義ヨハネ) 福音と真理(キリスト教マルクス主義) 「ある」と「ない」をつなぐ
三 二股をかける哲学者―壮年期
 客観的否定性(DES論文:ヘーゲル論、空虚から内容が生まれる) 増殖する二股 党内論争を招く「理論」(党内分派) スピノザの名による「統一」(ENSのグループ・スピノザ) 「科学者のための哲学講義」(67年ENS)と「レーニンと哲学」(68年フランス哲学会)
四 危機の炸裂―一九七〇年代以降
 鬱への転落 断片 「プロレタリア独裁」放棄への反対 「精霊に呼び出されました」 未来は長く続く

*二重性 空虚・無が有を生む

第二章 偶然性唯物論スピノザ―問題の「凝固」
― 偶然性唯物論―晩年の思想?
 思想が像(イメージ)として差し出される(「出会いの唯物論の地下水脈」)*降り注ぐ原子の雨の詩(エピクロスクリナメン・原子の偏倚の詩) スピノザは偶然と空虚を否定する(神の充溢) 「空虚」の力が変わる
二 構造とはなにか
 構造的因果性は「発生」を問題にする(外部がない)*エピクロスクリナメンについてのメモ アルチュセール、未来の宿敵アロンから「偶然」を学ぶ(ワルラスの師オーギュスタン・クルノ) 「偶然」は「理性の狡知」ではない 「構造」はヘーゲルに捉まえられない(断層がない) 「構造」はスピノザに「認識」される
三 「錯乱」と「狂気」
 「次はスピノザだ」 スピノザマキャヴェッリの「経験」を教える(理論と経験・実践は回転扉) 「中心問題は(…)無からの始まりだ」 スピノザマキャヴェッリの「経験」に、フーコーの「狂気」が加わる
四 経験主義
 ヘーゲルは経験主義者である(世界を読む) 「経験」の先には「絶対知」が 『知性改善論』が捨てられ、『エチカ』が「はじまる」(断層、『精神現象学』と『大論理学』) 「彼女の名を口ずさみ」「開いた本を読む」 預言者は「目を開けて夢を見る」 「第3種の認識」は「経験」される

*スピノザの空虚、偶然、並行
東浩紀、コンセプト哲学、例「弱いつながり」「観光客の哲学」
※発生・始原、構造発生とともに閉じられる、始まりと終わりは見えない、世界の秘密
※重層的構造、原子・分子・細胞・器官〜宇宙レベル間の相互矛盾(同一系に包含できない空虚と偶然、亀裂・断層)、垂直的世界と水平的世界、通時的・共時的、矛盾と差異
*分子的「経験」は人間にはあり得ない
※フランス人のB型気質、「経験主義」の独自定義 

第三章 『資本論を読む』またはスピノザを読む
アルチュセールスピノザ
 「真は自らと偽を指し示す」―科学性の基準と哲学(『資本論』からマルクスの哲学を取り出す、スピノザの方法) 「見ていることを見ている」―デカルトによる反照的二重化(メタ、二度目の「考える」) 「われわれは実際、真なる観念をもっている」―認識のはじまり(「観念の観念」の否定) アルチュセールデカルトに戻る?(理論の理論) 認識生産は革命と「並行」する 認識生産は「3つの一般性」をもつ 並行論、証明されず(革命、認識論的切断)
二 徴候的読解とはなにか
  徴候的読解はスピノザの方法である(聖書を読むスピノザ、古典派経済学を読むマルクス、反省的認識、「道」を歩む方法) 「観念」は認識内的に「並行」する(スピノザ存在論的並行と認識論的並行) 「観念」は「霊的自動機械」である 徴候的読解はスピノザを批判する―「労働力」の「価値」(反照の反照、剰余価値の搾取)
三 神の背中―哲学と宗教
 認識は「見ると見ないの有機的混同」を運ぶ はじめに確信/確実性ありき―哲学と宗教の区別と同一性 神の背中を見る
四 「われわれ」は「狂って」いる
 イデオロギーが「真なる観念の形相」を与える 「狂って」いるから振り向き、「原因」を認識する 

第四章 構造から〈私〉と国家へ
一 「錯乱」するアルチュセール
 はじめに幻覚ありき 「感情」が「霊的自動機械」を作動させる 幻覚の氾濫、妄想なき錯乱
二 原因の劇場
 二重の包摂または「作者なき演劇」 並行論は構造的因果性論である 「個体」―個人/国家―は存在するか 本質と存在が分裂する―「偶然性唯物論」再論(クリナメン) ドラマが終わり、「出会い」が訪れる
三「イデオロギーと国家のイデオロギー装置」再考
 主体なきイデオロギーは、個人の存在を危うくする―個体の存在論 スピノザイデオロギーからパスカルイデオロギー装置へ イデオロギー装置は「実体」を模倣する
四 〈私〉と国家
 ヴィルトゥ(権力)へのコナトゥス(努力)の拡張 「実体」になる―倒錯的スピノザ主義 二重の包摂が転移する―「マキャヴェッリとわれわれ」(運と力)

第五章 スピノザから遠く離れて
―『神学政治論』でも『政治論』でもなく
 スピノザ「革命」続く リベラル・スピノザ主義vs.アナーキースピノザ主義 スピノザの無力
二 哲学、政治、歴史
 「哲学とは理論における政治である」 「『神学政治論』がスピノザの『資本論』である」
三 起源、深淵、個人/狂人―フーコーと共闘する
 『狂気の歴史』は「歴史の起源」を問う アルチュセール、『臨床医学の歴史』を読ませてもらう 「個人」は「見えないで見える」 「政治」の主体は「狂人」である
四 国家の政治―フーコーと対立する
 「終わり」のマキャヴェッリ 「装置」か「装置」か 「そと」の権力技術 ニーチェ主義を退ける マルクス〈主義〉の限界
五 自伝という「政治」―「佐川くん」にならずピエール・リヴィエールになるために

本書において使用した文献
謝辞

-------------------------------------------------
始める・終える、始まる・終わる、主客・自他動詞

始め(着想)良い酔い、本論ぐだぐだへべれけ

  

アルチュセール ある連結の哲学

アルチュセール ある連結の哲学

 

 

ノート: 人間学命題集

人間学命題集

人間学命題集

 

※インターネット普及前。

 

序―人間学への案内 *人間とは何か。

 

I 生成の人間学 

 *宇宙における人間の位置。人間の物質性、自然との同質性や連続性。ピュシス的世界、コスモスあるいは唯物論(斉物論)。人間の創造性の秘密、二項対立の弁証法的乗り越え。

 

1 ニヒリズムに抗して(F.W. ニーチェ)  須田 朗 

悲劇の誕生 (岩波文庫)

悲劇の誕生 (岩波文庫)

 

  *真理において―「真」とはプラトンイデア。対になるのは「仮象」の生。西洋哲学の二元論。/没落しないために―超感性的な、最高の諸原理。イデア、神、定言命法、理性、進歩などの形而上学。この転倒の自覚がニヒリズム。真・仮象の二元論を超えて自然(ピュシス、根源的生命原理)の復権。それが力への意志。/われわれは芸術をもっている―ヨーロッパのニヒリズムとしての宗教・道徳・哲学。対抗原理としての芸術。超越的でない真理認識の新しい方法。芸術モデル。鑑賞者中心(女の芸術)から芸術家、創造者主体に。固定した作品(不変、存在)ではなく創作、生成の価値。絶えず超えていく超人。力への意志に最終目的はなく、超越と生成を繰り返し、永遠に回帰する。

 

2 持続する生命(H. ベルクソン)  作田 啓一

時間と自由 (岩波文庫)

時間と自由 (岩波文庫)

 

 *二項対立の運動。持続と空間。感情や心理は空間のように分割、統合できない。深い自我と表層の自我。意志決定は深い自我、人格全体から生まれ、そこに人間の自由がある。純粋記憶と純粋知覚、記憶と知覚のせめぎ合いの中に行為がある。物質の抵抗と知性、自由。知性と本能、直観。生命進化、創造のダイナミズム。閉じた社会と開いた社会、道徳・宗教。神秘家。

 

3 純粋経験と宗教経験の理論(W. ジェイムズ)  桐田 克利 

宗教的経験の諸相 上 (岩波文庫 青 640-2)

宗教的経験の諸相 上 (岩波文庫 青 640-2)

 

 *純粋経験、反省以前の直接的な生の流れ、知覚、直接知。意識の流れから概念、間接知、非連続、不変。主体、純粋自我、主我と客我。純粋経験、神秘体験、宗教的経験。1度生まれと2度生まれ。2つの回心、意識的と無意識的な方法。

 

4 コスモロジーと人間経験(A.N. ホワイトヘッド)  平田 一郎

 *コスモロジー。世界を構成する現実的実在(原子、モナド的な「こと・生起」)。モデルとなるのは根源的な人間経験。物質も心性、観念性を持つ主体。万物が生きている世界。意識は後発で経験が先立ち、今現在の経験には人格もない、非感覚的知覚。

 

5 歴史的身体をもつ存在(西田幾多郎)  大橋 良介

善の研究 <全注釈> (講談社学術文庫)

善の研究 <全注釈> (講談社学術文庫)

 

  *純粋経験―思惟・意志―知的直観。神人同性、神人合一。神と人との逆対応(集合論群論、一対多)、群=場所。場所的論理、行為、身体。創造され創造する世界。身体は働くと見るが結合する行為的直観の当体。人間のみが持つ歴史的身体。

 

6 生と形式 (G. ジンメル)  高橋 由典

 *生は表現のため形式を作り出し、形式は生を固定化しようとする、精神文化の悲劇。生が新しい形式を次々に生み出していくダイナミズム、発展形式の神秘化か。形式社会学生の哲学

 

7 哲学的人類学(M. シェーラー)  木田 元

 *宇宙における人間の位置を見定める哲学的人間学(人類学)。ユクスキュルの「環境世界」適応論。人間だけが「世界」開示的に生きる。ハイデガーの世界内存在、メルロ=ポンティのシグナル行動、シンボル機能。精神、唯心論、汎神論。

 

8 意識のドラマトゥルギー(J.P. サルトル)  菅野 盾樹

 *人間学としての伝記。透明な意識、明晰な言語はヨーロッパ人のドグマ。フロイトの無意識はナンセンス。意識は対自存在、他者や事物は即自存在で、「自我」は存在の無。ボードレールの人生は、自由な意識の選択で出来ている。サルトル人間学は、意識が自由に選択すること、闘いで自由を回復し救済すること。自己欺瞞、前反省的コギトのパラドックス、意識を祀る巨大ピラミッド。知性中心主義、20世紀版デカルト的二元論。

 

9 生成変化とマイノリティ(G. ドゥルーズ)  宇野 邦一

 *差異の肯定。同一性、総合、予定調和を前提せず、現実的な潜在性、分割できない強度や深さとして、また多様な分子と微粒子、マイノリティとして差異を捉える。資本主義の脱領土化・コード化と、偶像崇拝ナショナリズム原理主義・家父長制的価値の両義的な運動。マイノリティとしての分裂症。資本主義は帝国やコードを解体して差異を開放し、多様な分子と微粒子、マイノリティを生み出す。分裂症的な作家は新しい言語や身体の文学を作る。潜在性と強度のモデルとしての形態発生や卵(器官形成以前の身体のねじれや移動)。固定した形態、主体、同一性のマジョリティから逸脱する微粒子群の動きが生成変化(ねじれや移動)。マイノリティ問題はアイデンティティの保持より生成変化する(差異を生む)ことが重要。マイノリティからマジョリティは生まれる。※正統と異端。

 

10 創造的人間(S. アリエティ)  亀山 佳明

 *一次過程は無意識領域、夢や精神病の世界、未開人や子ども、古論理的思考。独創性。二次過程は日常的な通常の論理的思考。テスト、概念形成。三次過程、魔術的な統合。機知(ハイネの醜女とヴィーナス)、詩(ブレイクの薔薇)、科学的発見(ニュートンのりんごと月)

 

II 自己組織性の人間学 

 *アメリカ的。認知・情報・行動心理学。生命システム論。生命としての人間。プラグマティズム分析哲学。環境の中の人間。

 

11 制度と自由(A. ゲーレン)  宮嶋 秀光

 *人間は欠陥動物。制度は外部化・社会化された本能。例:過剰な性衝動―結婚の制度。自然的衝動の結晶化、物件化(転倒、物化、疎外化も)。トーテミズムなど宗教的理念によって、人間の文明や制度が生み出され、また自由も生まれた。人類史の晩年に生きる現代人の惨めさ。

 

12 自己主張的感情と自己超越的感情(A. ケストラー)  高橋 由典

 *ホロン概念。上位には部分、下位には全体(器官系ー器官ー組織ー細胞ー器官ー分子ー原子)。自己主張的/自己超越的傾向。自己超越は集団/超集団(大洋感情、自然・芸術・神)の方向。自己主張的感情は攻撃的、自己超越的感情は浄化的。国家や民族など集団への自己超越的感情が危険(社会、集団のため、道徳的で、自己主張だと気づかれない)。では、超集団への自己超越は? ホロンには究極の全体はありえないはず。還元論全体論もないのがホロン。※プロセスとしての世界

 

13 生成のコミュニケーション(G. ベイトソン)  矢野 智司

精神と自然―生きた世界の認識論

精神と自然―生きた世界の認識論

 

  *サイバネティックスのフィードバックシステム、自己ー環境の循環回路としての精神プロセス。論理階層論、パラドックス。情報に関する情報(コンテクスト、メタ・メッセージ)とメッセージのダブルバインド分裂病、一方でソクラテス対話法、禅問答。病理の一方で、回心や覚醒をもたらす。遊び、メタファー、ユーモアはパラドックスのコミュニケーション。

 

14 暗黙知と存在の階層性(M. ポランニー)  織田 年和

 *顔つきと誰か、諸細目と包括的全体。二種の感知を同時に行う。諸細目を暗黙的に統合し、包括的全体を創出している。知覚なども同じ。主体が統合を行い、知は人格的力による統合。コンピュータと違い、誤りと上達がある。統合を深めたり、諸細目に焦点を当てることも可能。暗黙知の階層構造。生命の階層的世界(物理化学的物質ー動物生理ー社会的道徳的存在)に境界制御の原理。生命活動自体が身体を諸細目として統合し、包括的全体としての目的を達成すること。包括的全体としての生命、精神。生命進化、人格変容も、諸細目を再統合し、新たな包括的全体を創発することか。※無限のテキスト解釈。コロンブスの卵

 

15 オートポイエーシス (H.R. マトゥラーナ、F.J. ヴァレラ、N. ルーマン)  正村 俊之

 *自己組織化。※自己言及的。生命は同時に同一性と差異性、統一性と多様性を持つ。構成要素でありネットワークでもある循環構造。4特徴:自律性、個体性、境界の自己決定、入力・出力の不在。ルーマンが社会、人間に適用。開放性と閉鎖性を備えた自己準拠的システム。社会システムはコミュニケーションの自己組織化(行為へ縮減する自己観察が媒介)。心理システムは意識の自己組織化(自己観察が媒介)。意味の自己準拠性、トートロジーと脱トートロジー。意識が意識を反省する。

 

III 超越の人間学(聖の人間学

 *人間の立つ所、存在のあり方。人間の独自性、意味の世界。主体。

 

16 絶望という跳躍板(S. A. キェルケゴール)  鳶野 克己

 *絶対の他者である神は、つまりは人間は生の理由、生きる根拠を問う者。絶望とは神から離れ、自己を問わないこと。①問いに気づかない、気づこうとしない者。②不幸な自分から逃げ出す者、閉じこもる者。③絶望、不幸に居直り、神を拒む者。背中合わせに神。

 

17 至高性一赤裸の現存の輝き (G. バタイユ)  西谷 修

 *フレイザー『金枝編』の森の王ディアヌス。前王を殺して現王となり、やがて次王に殺される。始まりと終わりが見えない中間者、ウロボロス、死にさらされた至高者。内的体験、脱存・恍惚・忘我の神秘体験、主体の外、主客からの離脱。ヘーゲル批判。死に身をさらさぬ主人に自由・主権はない。

 

18 超越の人間学(M. ハイデガー)  木田 元

  *前期の存在了解。人間だけが動物としての種の特有環境を「超越」してあらゆる存在者を「世界」として見ることができる。世界内存在の働き。人間だけが動物の現在を超えて、過去や未来という時間の次元、時間化作用をもつ(「存在と時間」の視点)。世界とはこのような高次の構造。『存在と時間』段階では思い違い(存在了解には人間の自由があり、時間化のし方、つまり生き方を変えることで世界を変革しうる。ナチズムの夢)。後期は存在の生起。存在は人間の意志とは無関係に生起するものへ。※「革命は起きる」という若気の至り、先走り。

 

19 我-汝、我-それ (M. ブーバー、E. レヴィナス)  皇 紀夫

 *人間のあり方を語る2つの根源語。互換不能。「汝」の「それ」化。レヴィナスのブーバー批判。 他者・汝の優越。

 

20 供犠と集合暴力(R. ジラール)  織田 年和

暴力と聖なるもの (叢書・ウニベルシタス)

暴力と聖なるもの (叢書・ウニベルシタス)

 

  *共同体、王の支配の起源。共同体内の相互暴力を1人の犠牲者への集合暴力に転化、解消する。集合暴力、魔女裁判、人身供犠。デュルケムの集合沸騰、フロイト『トーテムとタブー』の原父殺し。山口昌男スケープゴート論は集合暴力肯定論。オイディプス神話。暴力と聖。聖は外部化された暴力。汚れと聖。近親相姦の禁止(外婚制)と特定食物の禁止のトーテミズムは暴力の外部化が目的。デュルケムとウェーバーのカリスマ論。

 

21 魂における存在(C.G. ユング)  河合 俊雄

 *人間の現実は、生物や物質、観念に基づくものではなく、魂(anima)の活動、心理においてある。現実性は魂が日々作り出すファンタジー神経症も1つのファンタジー)。魂における存在、「esse in anima」、魂の中に人間がいる。自我中心主義の否定、集合的無意識。元型の統合・結合、自我中心ではない個性化や自己実現、物と精神の出会い、コスモロジー。三位一体の教義には女性性、身体性が欠如。錬金術やマンダラは統合モデル。

 

22 地表を覆いつくす労働者の〈根こぎ〉(S. ヴェイユ)  冨原 眞弓

 *1909-43年、34歳の生涯。労働者の幸福とは何か。

 

IV 表現の人間学(身体と性の人間学)(芸術・スポーツの人間学

 *表現する人間。身体、言語、芸術。シンボル、神話、遊び。文化・表現の源泉、発生の構造。

 

23 語る主体と野生の存在(M. メルロ=ポンティ)  加國 尚志

メルロ=ポンティ・コレクション (ちくま学芸文庫)

メルロ=ポンティ・コレクション (ちくま学芸文庫)

 

  *世界への実存的基盤、前意識的な知、非人称的存在としての身体。表現や言語も所作的意味、受肉した身体の上に語る主体がある。言語の制度・語る主体・新たな表現。握り合う両手の可逆性、画家の身体性における交差。「私が森を見ているのではなく、森が私を見ている」。野生の存在、世界の無尽性。

 

24 異文化としての自文化、「ひと」としての女(九鬼周造)  坂部 恵

「いき」の構造 他二篇 (岩波文庫)

「いき」の構造 他二篇 (岩波文庫)

 

  *白茶色。いきは媚態の円熟、武士道の意気地と仏教の諦めによるところの。道教の無の要素もあり。苦界、女への共感。

 

25 根源的現象としてのリズム (L. クラーゲス)  西村 拓生

 *拍子(人為的な分節化)とリズム(分節と持続が調和した分節的持続性)は異なる。リズム、例えば波の反精神性(上下運動の転向点、無限運動)。精神と魂(生)の敵対。測定可能時間と生命的な時間(ベルクソンとの共鳴)、表現としての生(ディルタイとの共鳴)。生と精神、リズムと拍子の融合、リズム的脈動。デリダ的なロゴス中心主義の批判、世紀末時代の文化批判・新教育運動の一環。

 

26 内なる生の神話としての芸術(S.K. ランガー)  西村 拓生

 *サイン(シグナル。稲妻→雷鳴)とシンボル(コンセプション。多様な観念・記憶・イメージ)。論弁的シンボル(言語。線形配列)と現示的シンボル(芸術。感情のように語りがたいもの)。芸術とは現示的シンボルによる感情の客観化、論理的表現、一般的形式、本質・原理。芸術は人間の感情の普遍的なパターンの経験、内なる生の神話。

 

27 シンボルと文化的多元性の復権(E. カッシーラー)  村岡 晋一

シンボル形式の哲学〈1〉言語 (岩波文庫)

シンボル形式の哲学〈1〉言語 (岩波文庫)

 

  *19世紀の実証主義・科学主義の破綻、世紀末からのシンボルの復権。新カント派的な理性批判から、言語・神話・芸術・宗教・科学に及ぶ文化批判へ。表情・表出・意味のシンボル機能。文化的多元性の復権の試み。だが、理性を信じる19世紀思想家。

 

28 遊びと文化(J. ホイジンガ)  井上 俊

  *ホモ・ルーデンス、「遊ぶ」ひと。義実的な仕事ではなく、自由意志によって選択された余暇活動。真面目な「プレイ」。神聖行事と祝祭競技。19世紀は真面目の世紀。カイヨワの聖・遊の分離、聖・俗・遊の三元論。ホイジンガは遊びではなく遊びの精神の研究。文明・現代社会・ナチズム批判。

 

29 個人と集団における隠蔽記憶(S. フロイト)  岸田秀

モーセと一神教 (ちくま学芸文庫)

モーセと一神教 (ちくま学芸文庫)

 

  *フロイトは宗教や文化など集団心理から個人心理を考えた。「モーセという男と一神教」。ユダヤ教選民思想は多民族の神。エジプト王のイクナートンの一神教に由来。割礼はエジプトの風習。

 

30 昇華という問題(ノーマン・O. ブラウン、P. リクール)  作田 啓一

 *性欲(本能)が文化・芸術の源泉・エネルギーとなる昇華。性欲は神経症、倒錯、創造的行為となる。リピドーの配分か変換か。リクールは対象リピドーの自我リピドーへの変換を主張。ブラウンはエロスとタナトス、依存と独立。死からの逃走、文化的業績による不死など。ブラウンは西欧哲学批判、リクールは西欧哲学にフロイトを組み込む。

 

31 ポリロゴスー構造と外部との対話(J. クリステヴァ)  西川 直子

 *ポスト構造主義記号論構造主義は記号も閉じた構造としたが、外部へ開かれている。意味作用から意味生成へ。意味の生成〜解体。他者と多声的な対話を行う相互テクスト性。詩的テクストの多重多義的意味生成。フェノ(現象)テクストとジェノ(生成)テクストとの多層性。フロイトラカン精神分析理論。意識と無意識、語る主体の分析。ル・サンボリック(記号象徴態)とル・セミオティック(前記号態)。象徴界・超越論的主体、現実界・創造界・前エディプス的様態・『ティマイオス』のコーラ(母子一体)。ヘーゲルの否定性をフロイトの「死の欲動」で唯物論化。アブジェクション(両義的なおぞましいを棄却し対象化する運動)。テクスト、詩的言語のポリロゴス性。

 

V 人間形成の人間学・病の人間学 

 *教育、成長。科学物質文明全盛の20世紀における人間学・教育学。二元論的思考を超えて、現実・全体性を求めて。人の一生、死。精神の病、生とは。実存と苦悩。

 

32 経験と成長(J. デューイ)  矢野 智司

 *教育に目的はなく、成長する過程のみ。経験あるいは状況は有機体と環境の相互作用。主客二元論的思考に入らない。問題状況から解決し(状況変容させ)再び統一状況する探究。環境変容、意味生成する探究の力の拡充が成長。成長が生の目的(※ニーチェ)。変転する状況としての自然。哲学は確実性の追求(基礎づけ主義)史だが、このゲームはリストラすべき。哲学は経験の自己言及史、成長パターンの道具に。形而上学の実体化や二元論的思考が偽のカテゴリーを作り世界分割する。教育問題も子ども中心か教科中心かなど二者択一でも弁証法的統合でもなく、無数の差異、個々の経験の再構成の問題。教育の目的は道徳的人間など外部化するとそれに従属しニヒリズムとなる。それは偽の言語ゲーム。成長に向けた個々の教育経験・実践を解放すること。状況を離れていかなる目的もない。

 

33 宇宙とともに進化する人間(R.シュタイナー)  木戸 靖

 *内側の世界へ。肉体(物質、鉱物)、生命体(植物)、アストラル体(動物、感情)、自我。7年ごとの成長段階。性的成熟、自我の目覚めを経て、宇宙進化の中の課題の理解と自覚へ。生死の前後も宇宙とともに進化する人間。教育、芸術、オイリュトミー。

 

34 子どもと大人の人間学(M.J. ランゲフェルド)  伊藤 一也

 *方法としては現象学的、方向としては人間学的。子どもと大人の呼応、愛。

 

35 新しいイメージはいかに誕生するか(W. ベンヤミン)  今井 康雄

ベンヤミン・アンソロジー (河出文庫)

ベンヤミン・アンソロジー (河出文庫)

 

  *肉体と身体、肉体の身体化(習慣的世界へ)、模倣や遊び、肉体は身体の太古の層。子どもは事物を新しく再認識し、新たなイメージを生み出す。ピアジェではイメージは思考の前段階にすぎない。「隠れ遊び」、幽霊・神殿・仮面、肉体が明確な境界を持たない。『ノーライフキング』の身体的なイメージ。教育は子ども、子ども時代と出会う回路。そこは人類のイメージの宝庫。教育は世代間に不可欠な秩序。

 

36 アイデンティティとジェネラティヴィティ (E.H. エリクソン)  西平 直

 *人生選択と世代継承。幼年期(育てられる)、青年期(モラトリアム)、大人(子を育てる。愛することと働くこと、世代をつないでいく)、老年(子育て後。孫と子、自分と親)。老年期から後ろ向きに人生をたどり直す視点。自分の人生に折り合いをつける。

 

37 死の受容(E. キュブラー=ロス)  田中 毎実

 *5つの段階。行く者の成熟として、送る者の教育としての死の受容。成熟の相互性。独り立ちと1人発ち。生は死にいく過程、人生は小さな死の受容と再生のくり返し。医療体制の物象化への対抗。臨床的人間学

 

38 模倣から表象へ(H. ワロン、J. ピアジェ)  麻生 武

 *ともに発達心理学者。イメージから表象的思考の発生をめぐる議論。ピアジェは人間の認識も生物の環境適応と機能的に同一とする発生学的認識論。個体論的、生得的発達(社会性や歴史性を無視)に還元。ワロンは言語共同体の社会を前提に、表象におけるイメージと名前(言語)の結合を重視。人間の多様性や複雑性に着目し、トータルで具体的な人間把握を主張。ピアジェは人間の全体性をあえて問わない方法論的「断念」で知のフロンティアを生産的に切り開いたが…。

 

39 にせの自己と狂気(R.D. レイン)  亀山 佳明

 *科学としての精神医学批判。実存的現象学で狂気の患者も見るべき。分裂病質は母子関係、依存を介した分離の満足度による。身体的誕生、生物学的生存、実存的誕生。自己と世界の間に断層、アイデンティティと自律性が不安定。自己防衛に、外部の自己(外界につながる身体性)と内部の自己(無身体性)、にせの自己(欺瞞・虚偽、無能)と真の自己(誠実・正直、万能)に分裂。逆説的、両義的な関係、悪循環。分裂病は真の自己が突出したり、にせの自己が真の自己を殺そうとしたりする。真の自己がさらなる分裂を繰り返すこともある。自己内外の、自己他者の区別がなくなる病。※この逆が「正常」。

 

40 欲望の倫理学 (M. クライン)  椿田 貴史

 *フロイト派の児童分析、象徴的解釈。良い乳房(快感、母親との一体感)、悪い乳房(攻撃性、死の本能)、良い乳房の破壊と喪失。発話と運動の快感を通じて、象徴的な世界へ原初的昇華(罪の意識、感謝や償い)。

 

41 苦悩と無意識の精神(V.E. フランクル)  桐田 克利

 *意味への意志。ニヒリズムヒューマニズムの危険。人間の内在性(実存性)と超越性の人間学・精神療法。身体・心理・精神(意味、自由と責任)。強制収容所での価値体験、美しい日没の光景。無意識の精神性は心情・感情、反省不可能性、良心・愛・芸術。創造・体験・態度価値。苦悩する人間は充足と絶望の次元にある。人間が人生の意味を問うのではなく、人生が人間に問いかけている。未定の未来に希望がある。内在的な自我、無意識の精神性の背後・根底に、超越的汝・無意識の宗教性・意識されざる神を見出す。人間は意味への意志を持つものであり、受難し苦悩する者。

 

VI 記号・規範の人間学 

 *倫理・自由、欲望の根拠・由来。言語のトポロジー。論理の論理。

 

42 定言命法(I. カント)  宮武 昭

 *倫理的相対主義の克服。主観的な格率と客観的な法則、仮言命法定言命法。幸福を追求する自然的人間、道徳法則・理性・自由。経験的性格と英知的性格。定言命法は抑圧的イデオロギー超自我強迫神経症に結びつく。

 

43 他者の欲望(J. ラカン)  新宮 一成

 *フロイト思想の理論的精錬(心理学化現象学化に抵抗)。『トーテムとタブー』、主体の起源と欲望の対象(禁忌)。自己の起源と生存の欲望、自己言及の無力の苦悩(どこから来たか語りえない。自己根拠の消失。受け身の生)。芥川『河童』、選ぶ生、生き続ける選択。事後的な生、それ以前は無意識の生。エディプスの自覚の瞬間。受動の能動への変換、母から父への同一化、父になる「エディプス・コンプレックス」、自分を生ませた他者の欲望を自分が生む欲望へと構成する。自己の他者による認知、疎外、父の名(不在の大文字の他者=普遍者、神、イデア?)による認知。死んだ父・原父という象徴界の座、個別の生が普遍の視覚を得る場。愛や憎しみのパラノイア的関係。精神分析の倫理、対象α、転移、人間の欲望。

 

44 形式としての言語(F. ド・ソシュール)  立川 健二

 *音や文字の表現実質、意味や概念の内容実質ではなく、関係ネットワーク、形式=構造。諸科学とは独立に、内在的に言語学固有に自律的科学として成立。2つの同一性、実質的と形式的。イェルムスレウによる6層化。内容素材・内容実質・内容形式・表現形式・表現実質・表現素材。言語学記号学化、あらゆる文化現象が記号学の対象に。

 

45 倫理から論理へ(C.S. パース)  野口 良平

 *思索、記号、宇宙の理論。デカルト批判と新しい思索方法。思索とは、生きた問い-疑念-推論-信念。行為、習慣。固執(自己願望)、権威(共同体)、先験(形而上学)、科学の方法(事実との一致、相互判断。検証、追体験可能性)。記号学:記号(イコン、インデクス、シンボル)、対象、解釈項(感情、努力、論理)。論理的最終的解釈項は習慣変化へ。直接経験の流れ(媒介の働き、実在的な力、思いつき・強引な力)。演繹、帰納、仮説原理。宇宙論:科学的形而上学。準備としての現象学(感触の性質、事実、法則・習慣)と規範学(美学、倫理学、論理学)。連続主義(例:聴覚とそうでなかったもの)と偶然主義(偶然にできた習慣が法則)。

 

VII 風土の人間学・空間の人間学 

 *硬直的思考の打破。男性的から女性的?原理の優位へ。科学主義から詩的思考や夢想へ。モノローグから対話思考へ。垂直孤独時間から水平庇護空間へ。細分化から総合化へ、短期的から長期的な見方へ、微分的から積分的思考へ。

 

46 科学と詩による弁証法的生成(G. バシュラール)  渋澤 孝輔

水と夢 〈新装版〉: 物質的想像力試論 (叢書・ウニベルシタス)

水と夢 〈新装版〉: 物質的想像力試論 (叢書・ウニベルシタス)

 

  *独学者。科学哲学者&誌的評論家、アニムス&アニマ、精神と魂。詩や夢想による科学的意識の包摂。

 

47 カーニヴァル的世界感覚(M.M. バフチン)  桑野 隆

 *ラブレーにおける民衆のカーニヴァル、グロテスク、笑い。17世紀以降解体し、近代モノローグ原理へ。ドストエフスキーによる対話原理、ポリフォニー小説。

 

48 住まうこと一新しい庇護性(O.F. ボルノウ)  毛利 猛

 *ディルタイハイデガー、解釈学の現象学的展開と現象学の解釈学的展開。人間の空間性。住まうこと、人間的空間。被投性と庇護性、不安と安心、新しい庇護性。内部と外部空間、うちとそと、逸脱は故郷喪失と引きこもり。住まう、存在する。存在信頼、母の庇護。庇護性は被投性に対して発生的に事象的にも優位に立つ。

 

49 時空の多元的認識へ(F. ブローデル)  福井 憲彦

〈普及版〉 地中海 I 〔環境の役割〕 (〈普及版〉 地中海(全5分冊))

〈普及版〉 地中海 I 〔環境の役割〕 (〈普及版〉 地中海(全5分冊))

 

  *断片化・細分化、タコツボ化から人間科学の全体化へ。歴史の3層、多元的時間。長期的環境(地理、生態、地中海)、中期的社会的流れ(海流)、短期的個別事象・人物(波)。学際、国際的共同研究を志向。特長:グローバル、数世紀にわたる視野。諸領域の関連構造や地域差異を踏まえた骨組み。環境生態問題への視点。数量歴史学地下経済(人口・自然など諸条件)・市場経済(交換ゲーム)・世界経済(資本主義)の経済認識で近代生産力中心主義史観を脱中心化。多元的要素が織り成され歴史を作りあげてきたのかの叙述。

 

VIII 社会と文化の人間学 

 *近代社会、市民社会における人間。自由意志、良心、人格。人と人の間。社会と個人。人間の合理性と非合理性。社会的歴史的存在としての人間。啓蒙理性は正しいか?

 

50 孤独と共同体の対立と両立(J.-J. ルソー)  作田 啓一

 *社会契約における全体と個人。ルソーの自由意志はカントの人格へ。祭の民衆は主体であると同意に客体。全体は一般意志・主権者、各個人は個人意志・被治者。社会状態での内面と外観の分離。自己愛と自尊心。社会の孤独者の自然の中での幸福、理想社会の市民の共同の幸福。『エミール』は市民になるためのではなく、人間になるための教育の書。ルソーは近代(啓蒙主義)と超近代(ロマン主義)の思想。

 

51 共同体と個(G.W.F. ヘーゲル)  長谷川 宏

法哲学講義

法哲学講義

 

  *共同体精神、人倫は自由の理念、生きた善。「法哲学」とは正しい生き方を問う学問。社会集団、社会生活の中に具体的な自由や善がある。共同体と個人の交流、共同体精神の成熟度、教育・自己形成、近代社会の弁証法。家族、市民社会、国家。

 

52 〈人-間〉存在の倫理学(和辻哲郎)  米谷 匡史

人間の学としての倫理学 (岩波文庫)

人間の学としての倫理学 (岩波文庫)

 

  *近代批判の倫理学。主客図式を超え、間主体的な行為に照準。人と人の間。ハイデガーと初期マルクスを媒介に、歴史的社会的な人間存在論への転回。相互行為と言語表現の循環。せめぎあい、社会的正義へと向かう、全体と個の相互否定、自他不二の空の弁証法。近代世界の危機を乗り越える近代の超克、日本の世界史的意義と共振。和辻倫理学の解体と再編。

 

53 沸騰する社会と宗教(E. デュルケム、M. モース)  岡崎 宏樹

 *デュルケムの「社会と神」。集合的沸騰の中で、集合的理想や宗教が生まれる。宗教は社会現象であり、社会が宗教現象。人間は個人性と社会性の二元性をもつが、社会性が優位に立つ社会学的還元主義。ジラール(共同体の悪と暴力)、バタイユ(溶解体験と拡大体験)、ベルクソン(閉じた/開いた社会)の視点。モースの『贈与論』も同じ理論的問題に直面。

 

54 合理と非合理(M. ヴェーバー)  厚東 洋輔

 *人類は呪術から合理化へ。死の問題。祟り、浄め。合理化としての宗教。全能で正しい神と現世の矛盾、神義論。さらなる合理化としての科学。世界の機械化、無意味化。新たな二元論、無意味世界vs神秘体験。神秘への通路、人格と自我(ロマン主義、天才・超人)。近代国家、ネーション、ナショナリズム、永遠、死にがい。ナショナリズム後の新たな宗教、生きている救世主(導師)。合理化と非合理的なもの、光と影。合理化の果ては非合理の濃縮、いや知性主義の故郷。

 

55 歴史的自己省察(W. ディルタイ)  塚本 正明

 *歴史的存在としての生、現実。状況内自覚存在。水平軸的広がり・拡散(文化・精神、共同体、空間・時間、歴史)の中で垂直軸的な集中、個的現存が可能となる歴史的・構造的実存。歴史に造られつつ歴史を造るもの。人間は歴史の中での体験者・表現者・理解者、トータルな全人。

 

56 啓蒙の弁証法(T.W. アドルノ、E. フロム)  徳永 恂

啓蒙の弁証法―哲学的断想 (岩波文庫)

啓蒙の弁証法―哲学的断想 (岩波文庫)

 

  *ともにフランクフルト学派。『啓蒙の弁証法』:神話と啓蒙、野蛮と文明。オデュッセウスの物語、神話から啓蒙へ、成熟と自立の神話。同時に、自然と人間を支配する自我へと転化し、啓蒙は神話へと退化する。技術による外的自然、道徳による内的自然(肉体、欲望)の支配。内外の目的の喪失(ナチズムもその1つ)。内外の自然を支配することで確立された主体の哲学史の批判。フロムの『自由からの逃走』は、近代人の自由・主体性からの逃走、啓蒙から神話への退行。サゾマゾ・権威主義的批判はナチスム、アメリ大衆社会批判。

 

IX 歴史の人間学 

 *歴史を通しての人間学、というより、近代のアポリア。近代純粋理性批判。近代科学理性の物神化。近代の権力と主体。主観的意識の誕生。メディアの变容。

 

57 感情移入の歴史学(J.G. ヘルダー)  宮武 昭

 *カントの純粋理性・超越論的主観は世界を超え出て神の高みから理念的に世界を構成し、科学的認識以外の認識(色や硬さなど質感)を排除し、それらを経験的・二次的なものとした。アウグスティヌス以来の救済史観やヴォルテール進歩史観も同様。啓蒙理性がそぎ落としたものの復権。個別性、感情移入、複数の小文字の歴史。比較ではなく多元論。

 

58 自由な人びとの構成する生産共同体(K.H. マルクス)  吉沢 英成

ドイツ・イデオロギー 新編輯版 (岩波文庫)

ドイツ・イデオロギー 新編輯版 (岩波文庫)

 

  *共産主義は共同体(コンミューン)主義。分業自体ではなく、自然成長的自然発生的分業が悪。意識的計画的統制のもとでの分業。アダム・スミスは分業と神の見えざる手(市場機能)。マルクスはグローバル・コンミューンを人間の頭脳(科学・技術)で意識的な計画統制。経済はもちろん、言語の自然成長性も批判し科学的に統制し最適の言語をつくるべし(『ドイツ・イデオロギー』)。科学的社会主義、マテリアリズム。存在は意識を規定する。すべては自然科学として解明できる。思想・観念(イデオロギー)は現実を変えない。『経済学批判』は科学となりきっていない経済学のイデオロギー部分を批判。商品の物神性。商品交換は共同体の異物。商品交換は共同体関係をゆがめ、売買契約を隠蔽した支配・被支配の関係とする。蒙昧な意識はすべて資本主義社会のイデオロギー。だが、果たして商品交換は共同体の異物か。

 

59 主体の転位(M. フーコー)  大澤 真幸

 *考古学とは、事物や言説がいかなる無意識の規則により配置されてきたかの歴史の探究。狂気と理性の区別、知の台座の変遷(類似→表象→人間)。それを規定する権力の系譜学。古典主義時代から近代の権力へ。権力の抽象化・不可視化(パノプティコン化)と、身体のディシプリンによる主体化(=従属化)。西欧の伝統は性の科学。それを可能にする告白という言語行為(語る身体と語られる主語)による個人の主体化。ヘブライズムの牧人権力。そうではないギリシア・ローマに脱出路を探る。キリスト教と古代の性道徳は内容ではなく、論理が異なる。自由な市民・人間・支配者であるための自己への配慮、心の平安。告白や他者を含めた自己吟味は牧人権力へ接近。脱出路である自己配慮(自由、自己統治)は主体化=従属化する権力過程の中に内在している。※あれかこれかではない。同じ自己をいかに育てるかにかかっている。

 

60 意識以前の人間(J. ジャイネ)  高橋 由典 ジェインズ,ジュリアン

 *古代人は神々の声の幻聴により、主観的意識のない意思決定をしていた。二分心、神や死者の声を聴く心と現実の言語を聞く心。『イーリアス』に人間の内面はない。死者への食事供与、メソポタミアの偶像の大きな目が状況証拠。大脳の左右半球の機能、分離脳患者の実験。神は農業社会の出現による共同体の精神。紀元前1千年ごろ、アッシリアによって共同体が世界帝国となり、他人の内面をのぞき込む必要から、初めて主観的意識が発生した。神の声を聞く心は巫女・シャーマン、詩人、歌につながっている。

 

61 メディアと身体技術の变容(M. マクルーハン)  吉見 俊哉

 *声、文字・印刷物、電気メディア。聴覚から線形視覚、さらに触覚的へ。時空間の超越。メディアは二者択一的な移行(ポケベル→ケータイ)ばかりではなく、重層的なプロセス(読書、テレビ、ラジオ)でもある。

 

人名索引

 

-------------------------------------------------

ヨーロッパ思考について。その特長。

・メタ(超越)思想、メタ-メタ思想 自己言及(パラドックス) ギリシア起源?

・二分法(水平分割)や二項対立(二次元化)、さらに上下分割や垂直統合(三次元化) 主・客、自・他、静止・運動、静態・動態(生成、過程)、意識/無意識、構造主義ポスト構造主義ヘーゲル弁証法

・理性、霊魂、神の通底 見えないもの、形而上学 ⇄見えるもの



「ヨーロッパの危機、近代の危機」とは何か

・19世紀末~第2次世界大戦 ヨーロッパの危機、近代の危機

 ニーチェ、シュペングラー、ベルクソンウェーバーフロイトフッサールハイデガー、ジェイムズ、神秘学、ナチズム

 19世紀近代(啓蒙主義、新教主義、科学主義、合理主義、実証主義進歩主義、ヨーロッパ主義)の終焉、挫折

・派生→日本の危機:近代の超克、世界史的意義

 西欧対東洋の図式 明治以来の相克 「近代化=西欧化」の終わり?

 版図や民族の再設定?

 

-------------------------------------------------

ラカン ことば(観念)の功罪 分裂症はことば(観念・精神)の病

    レイン 分裂症から見た正常

 

人間の世界:

言語の多義・多元・多層性、解釈・意味創造の無限性。

数学論理的物質的にも、世界の無限分割性。

 錯覚・エラーも1つの解釈(機械、AIには原理的にできない)

 世界と言語(観念・精神)の齟齬。そもそも対応していない。言語は任意、シンボルにすぎない。

 同じ事も意味が異なる。同じ生き死ぬ人生も人により違う。毎日のそうじ。

 

世界は捉え難い(ただし、カオスやランダムでもない)。

 世界は一義的定義可能と固定することが誤謬。

  社会・思想的には「~主義」、個人は精神症。

  一時的暫定的には可能だし理論的に有用。 仮説、プラグマティズム

  微分積分的断定、うわさ

 真相は過程的、プロセス 相互的、相補的、相克的、総合的。 生成

  ただし、解釈不可能で理論的には使いにくい。

  私たちはあいまいさの中で生きている。すべてグレー、あれかこれかではない。正解はない(複数ありうるし、永久ではないし)。絶対はないし、神はいないし。ただし、カオスやランダムでもない。

 

ノート:今村仁司『現代思想の基礎理論』(1992)

現代思想の基礎理論 (講談社学術文庫)

現代思想の基礎理論 (講談社学術文庫)

 

 (目次)
まえがき
プロローグ 思想の現在(1987)
 一 異なるものとの出会い
  脱ヨーロッパへの動き 思想のアヴァンギャルドとは何か 開かれた精神―異者への驚き 
 二 バロメーターとしての流行
  フランス物の流行とその反動 スピーディに展開する思想舞台 批判的読書のすすめ
 三 構造主義実存主義
  構造主義の登場 「近代」をめぐる対決―構造主義実存主義 近代最後の哲学者・サルトル 「主体」の崩壊 *フロイトニーチェマルクスレヴィ=ストロースラカン 「科学的知」としての構造主義
 四 ポスト構造主義
  スタティックな構造主義への反省 閉じた構造から「事−成り」の地平へ 「個体的自由」の新たな可能性
 五 思想の現在
  物を考えることの根本 「政治的なもの」に立ち向かう思想 

※完全に閉じた構造はない。ずれや差異(整理できない異物、両義性、第三項)が理解できない異なり・事成り・出来事として噴き出す。「中心ー周縁」的構造、あるいは二項対立からはみ出たもの。「正解」はない
※政治、実践哲学。サブジェクト近代の主体は権力の臣民、権力問題(フーコー)。ポストモダンの権力、いじめやハラスメントをどう越えるか 人間関係は政治、権力関係 ただし「程度」問題

1 構造主義
第一章 構造主義の可能性(1978)
 はじめに 
 一 構造論の認識論的相貌 *脱-実体主義・固定点思想(近代主客図式など。カッシーラー『シンボル形式の哲学』)は複合的関係態(構造)の隠蔽イデオロギー
 二 二項対立と変換 *レヴィ=ストロースの方法論、言語学・音韻論、神話と無意識の構造、音素と神話素、還元と変換、社会の精神分析 難点:循環の不在、経験主義的認識論
 三 構造・循環・剰余 *世界のすべて複合体の複合体、構造の弁証法、複合的統一体の生動性、循環 ポトラッチ型:バタイユの過剰エネルギー論、周期性循環、成長と死、生産と破壊 過剰は自然史的ア・プリオリ 近代社会の景気循環:好況と恐慌
 四 結論―過程と剰余 *剰余概念とマルクス まず剰余はモノではなくコト 労働過程、「過程ー剰余」構造 小閉鎖系を絶えず壊しながら大閉鎖系に吸収される構造、開放系システムへの転換は歴史的・偶然性性格、過程内剰余効果・地下水脈・両義性 深層・下部構造、自然史的必然性、近代経済は上部構造、ブローデルの文明論、K・ポランニーの経済社会学

第二章 構造主義革命とその限界(1982)
 はじめに *レヴィ=ストロース
 一 形式化の問題 *数量化ではなく抽象化 二重の形式化
 二 実践の問題 *認識論(知識論)と実践論 形式化の中で捨象・排除されるもの
 三 実践としての形式的思考 *アルチュセールの切断

第三章 ラカンとアルテュセール(1981)
 はじめに 
 一 「フロイトラカン」 *青年期ではなく成熟期のフロイトへ回帰、アルチュセールマルクスへの関係と同じ 同一思想家内の認識論的切断 フロイト理論の科学化 無視職とはヒトが人に成るプロセスの諸結果(自然的世界→人間的世界)※人間的「意味」、交通銀号、ロビンソン・クルーソー 自然と文化の間の「飛躍」「戦争」 自然の子→戦争(と諸結果)→人間的主体 前エディプス期:母子一体、イマジネール(想像的) エディプス期:父の介入、象徴秩序・言語・大人の世界 両段階を象徴的なものが支配 言語の二重化、無意識と言葉、ずれ・換喩・言い間違い・夢…抑圧・否認 無意識の「言語」、文化の法、ディスクールの形式構造の分析 アルチュセールマルクス読み、無意識に対して生産様式のメカニズム解明 ラカンの「重層的決定」「移動」「凝縮」「抑圧」をかぎつける「徴候学的読み方」 イデオロギーのメカニズム解明:イデオロギーは否認・再認の構造、中心のない自然の子が否認され人間的主体・自己を再認し中心を得る 「理論的」イデオロギー解明:マルクスの「経済学批判」は「経済学」イデオロギー精神分析、「歴史の大陸」を覆うイデオロギー層(社会・人間科学)を打ち払う精神分析
 二 認識論的切断 *バシュラール:認識論的障害物(イデオロギー)と認識論的切断 不可逆的断絶 マルクスイデオロギーと科学 後期マルクスへの着目はいかに? 見えるものと見えないもの(生産様式、構造) 重層的決定、構造因果性
 三 重層決定(シュールデテルナミシオン) *無意識は他者のディスクール、他者とは文化・社会の法 現実界・創造界・象徴界の複合的、重層決定(非線型) 単層的線型的ヘーゲル弁証法 フロイト夢分析、重層決定、凝縮、症候(徴候)=無意識、妥協、意味の横滑りや重なり ※地層の形成、構造 ※ニーチェの徴候 非言語的な社会現象に「重層決定」をいかに適用するか  アルチュセールの意義:マルクス理論とともに、フロイト=ラカン理論の社会科学への一般化
 四 無意識とイデオロギー *イデオロギーも、無意識同様、想像界象徴界の二層で、他者のディスクールイデオロギー=無意識 イデオロギーは個人の想像敵な表象、イデオロギー(大主体、言葉、社会、文化)は個人に呼びかけて主体へと従属させる
 結び
アルチュセール「矛盾と重層的決定」「唯物弁証法について」(『マルクスのために』平凡社ライブラリー)「イデオロギーと国家のイデオロギー装置」

2 記号論
第一章 認識論と記号論(1982)
 はじめに *3つの新科学︰マルクスの経済学批判、フロイト精神分析ソシュール言語学記号学 アルチュセールの認識論から記号論へ、記号論の認識論
 一 理論的実践過程 *実践は自然(材料)を人間が労働を通じて有用な生産物へ変形すること、社会的実践の複合的統一 理論構築も実践(生産)
 二 レクチュール *テクストを読み、新しいテクストを生み出すことは理論的実践 テクストの中の穴・空白、沈黙 スミスーマルクスアルチュセール 問いの立て直し 徴候的な読み取り、見える見えないの二重構造
 三 経済素(エコノメーム) *経済学における交換一元論、交換主義的機能主義ではなく、生産様式という構造 資本-賃労働関係(労働者・生産手段・資本家や領主)、資本制生産力(生産手段)、これらの差異と統一 ソシュールの言語記号と同様に、一般化は経済記号となり概念の把握とnともにその生産・創出・構築となる
 四 テクスチュール *可視と不可視の間、暗闇、潜在的テクスト クリステヴァのル・セミオティク(原記号態)

第二章 消費社会の記号論(1982)
 はじめに *ボードリヤール 消費社会の記号経済体制批判
 一 欲求から欲望へ *欲求の神話:主体−欲求−客体、ホモ・エコノミクス人間学、生物学的自然主義「欲求−充足(消費)」 自然主義人間学(生物的欲求)と理想主義人間学(文化・社会的欲求) 文明−未開社会像(豊かさ−飢餓・貧困、自画像) 余剰に基づく社会の普遍性(※犠牲=呪われた部分) 欲求神話と孤立的個人、欲求−生産−消費 欲望:社会的・文化的行為、欲望−消費、関係→物(世界)の記号化
 二 消費の論理 *欲望−モノ−消費、差異的コノテーション、記号と差異の論理 モノの4論理:効用・市場・贈与・地位身分、道具・商品・象徴・記号(消費) 消費社会の流動性(流行、地位、代理的消費行動)
 三 「記号のエコノミー」批判 *差異化と差別化、排除 使用・交換・記号価値、象徴交換(両義性) 文化システムの破壊、詩的実践、犠牲の論理、禁忌侵犯、象徴交換(消尽)
 四 批評と展望 *難点 シニフィアンシニフィエの実体化、それによる記号批判 生産と労働のパラダイム終了宣言 記号の水平的コミュニケーション限定の誤り、クリステヴァの努力 

第三章 政治経済批評から社会批評へ(1981)
 はじめに 
 一 政治経済批評 *『経済学批判』とは「政治経済批評ならびに、それについての観念形態(イデオロギー=経済学)批評」(政治経済・「学」・批評) 「ブルジョア経済学批判→マルクス主義経済学」のためのものではない(両方イデオロギー)、ルカーチ宇野弘蔵も絶対化の誤謬 「批評→観念形態→現実」の三層→「観念形態→現実」の二層 ※批評=根拠を問う哲学、メタ思考 現実認識とはイデオロギー(認識理論)であると同時に現実を隠蔽する両義性をもつ(※始まりは終わり、終わりは始まり。始まりの隠蔽、黄昏のフクロウ) この永続敵な脱構築が批評
 二 記号論の適用条件 *人間にとり世界(社会と自然すべて)は記号(※人間的意味。素の自然などない) 商品交換での交換価値・使用価値をシニフィアンシニフィエとする誤謬 イデオロギーを批評する契機を欠く マルクス資本論』記述の二重性(上着とリンネルの価値)、指示機能と意味の表出機能、商品交換における水平面と隠蔽される垂直面 二項対立の指示機能での無限円環的なアポリアを破る排除された第三項=貨幣という意味表出機能
 三 社会批評に向けて *経済学の「商品−貨幣」論理は社会的な「社会−記号」論理と一般化しうる 社会や文化の隠蔽や排除論理(貨幣や犠牲、スケープゴートなど)を暴きトレースし社会の存立構造を解明することが社会批評 ホーソン『緋文字』ヴァルネラビリティ、第三項排除、暴力的、社会形成のために排除しなければならないもの(〜ではないことが存在条件) 生きることの意味、人間とは何かの問いを追究する永続的な社会批評 ※水平的指示・意味と垂直的意味:明示的・伝達的、黙示的

3 マルクス
第一章 マルクス主義哲学の死と再生(1978)
 一 知的貧困の克服 *『マルクスのために』序文:フランス・マルクス主義の理論的貧困の克服を(後に観想主義を自己批判)、哲学が科学となる哲学的な死をめざす だが、バシュラール認識論通り、イデオロギーは永遠に科学を脅かす故に批判としての哲学は永遠
 二 認識論的研究 *歴史の科学(史的唯物論)とマルクスの哲学 歴史科学の現実的対象、その母体=歴史の現前化が決定的な課題 マルクスの哲学革命(認識論的革命)を発掘する 政治の課題、思想上の階級闘争
 三 哲学的実践の変更 *哲学も政治も道半ば
 四 マルクス主義の危機 *政治課題 マキャヴェリに沈潜

第二章 マルクスの労働観(1983)
 一 自明性の殻を破ること *「労働」概念の再検討
 二 対象化的労働・非対象化的労働 *具体的、生産のための労働(ワーク)と抽象的、労働のための労働(レイバー) 結合(※フーリエ用語)作用としての非対象化的労働 近代資本制経済になって二重化
 三 近代的労働の命運 *労働過程の分離、分散化
 四 フーリエマルクス *フーリエ「楽しい労働」(二重性、美的経験を含む) エンゲルスのサン=シモン主義(対象化主義、生産力主義)へ
 五 享受行為としての労働 *『経哲草稿』 労働の二側面:活動と享受、能動と受動、対象化と非対象化(享受) 享受は消費ではなく、楽しむ、美的活動
 六 自由と自立の可能性 *グルントリッセ『経済学批判要綱』にもフーリエ美学、『資本論』の二重労働論 労働美学

第三章 非対象化労働論(1983)
 一 労働への問い *自明か? 最大の取り違え:生産と労働
 二 第三項への還元 *60年代のマルクス:生産と労働の峻別、対象化労働・非対象化労働の峻別 一貫した労働二重性論 交換価値の第三項への還元、価値は具体的労働ではなく抽象的労働による産出物 「労働」と「商品−貨幣」の二重構造をもつ第三項還元 幾何学的還元(イデア論的)と化学的還元(実体主義的)、社会的還元(生産物交換における人間労働の等置)
 三 第三項還元と第三項排除 *価値形態論と社会的還元 個々の労働の、人間労働の一般化抽象化と、一商品の貨幣化は同一論理 第三項排除の論理 マルクスの経済学批判:①労働と価値の切断、かつ経済価値システムは非価値的労働に絶えず破られる ②資本制経済では労働が価値化し、経済歴史的、特殊歴史的問題となる そのメカニズム解明(×ヘーゲル主義や宇野理論などの実体主義) 商品世界の貨幣と労働世界の抽象的人間労働、上部・表層と下部・深層、2つの排除された第三項、貨幣は労働を代理し隠蔽(フェティシズム)※見えるものと見えないもの 経済学批判の仕事は価値幻想・フェティシズムが隠蔽した社会的論理の解明 排除された第三項の抽象的人間労働は非経済的・非価値的活動 マルクスが提起した労働時間論は未解明 ※モモの奪われた時間、禅。遊び(ホイジンガ、蕩尽、自由、対仕事・労働)

第四章 フェティシズム論からイデオロギー論へ(1975)
 一 序論―研究概観 *フランス・マルクス商品論研究 言語学との関連 価値発生のメカニズム探求 ボードリヤール、グー、ラトゥシュ ゴドリエ ドゥルーズ=ガタリ
 二 コントのフェティシズム論 *神学的・仮構的段階-形而上学的・抽象的段階-科学的・実証的段階 神学的段階:フェティシズム多神教一神教的段階 宗教・哲学・科学の歴史哲学的綜合 フェティシズムは人間の本源的態度、有機体と環境、対立傾向の円環的出現(※環境システム論)
 三 コントと一八世紀フランス思想 *啓蒙主義者:科学・文明の先行→堕落、自然宗教や理神論 ド・ブロスのフェティシズム
 四 コントとスミス *フェティシズムのメカニズム スミスとヒュームの天文学史、スミスの自然感情論・3つの「おどろき」ワンダーとフェティシズム、ワンダーが原始宗教と哲学を生む ※ヨーロッパにおける感情論の伝統
 五 スミス・コント・フォイエルバッハ *フォイエルバッハの宗教論、宗教を人間学・自然学に還元 依存感、恐怖と救済の感情、宗教の本質 
 六 コント型フェティシズム論の構造 *原始宗教、未開人の思考、本源的人間精神、フェティシズム 19世紀西欧の共通思考 本源的過程:人間→自然、抑圧的:自然→人間 
 七 コントとマルクス *資本制的「未開人の思考」論、理論的・実践的 マルクスによるフェティシズムのメカニズム:客観的には生産力の低さ、主観的には自然と社会に対する関係
 八 イデオロギー論へ *未開人の世界も近代市民社会も演劇的 物質的富とフェティシズムイデオロギーの生産

第五章 アルチュセール以後(1983)
 はじめに 
 一 開かれたマルクス(主義) *アルチュセールの画期性 クリステヴァ P.シュレル、可視性と不可視性の不可視の関係 マルクス主義教条主義の打破、経済学「批判」の真の意義 「後継者」デリダ D.ルクール、ヴィトゲンシュタインからマルクスへ 『科学者のための哲学講義』:科学と哲学の峻別、哲学の沈黙、知の正当性 フランスのフランクフルト学派・リオタール、アドルノへの傾倒、ハバーマスへの異論
 二 マルクス学の新動向 *ネグリ、『グルントリッセ』 ブロワ ミシェル・アンリ、労働実践、現象学モナドジー プチ、関係主義的行為論

補論 日本におけるマルクス研究の新動向(1978)
 はじめに *65-75年
 一 理論的研究
  1.疎外論的立場 *内田義彦『資本論の世界』1966:疎外論的人間=社会観(本来性)、蓄積論的歴史観 平田清明『経済学と歴史認識』1971、本源的共同体分析、共同体-市民社会社会主義 望月清司『マルクス歴史理論の研究』1973 疎外論とは何か、ヘーゲル由来の近代主客論図式の中にある 対社会重視(対自然消失) 闘争論の脱落
  2.物象化論的立場 *廣松渉 「物象化論」とはマルクスによる近代認識論地平の超克 主体の二重性と客体の二重性、四肢的連関構造、世界内存在構造 社会性と歴史性 ※西田幾多郎っぽい、具体性に欠け静態的?
  3.前二者への批判的立場 *花崎皐平『マルクスにおける科学と哲学』1969 廣松物象化論+内田主体性論
 二 思想史的研究
  1.初期マルクス研究 *良知力『ドイツ社会思想史研究』1966 廣松渉マルクス主義の成立過程』マルクスエンゲルスの分離へ
  2.『ドイツ・イデオロギー』の文献批判的研究 *廣松渉編纂『ドイツ・イデオロギー』1974
 三 七〇年代の新動向 *マルクスの自然観の探究

エピローグ 世界史の危機的転換期に(1992)
 一 社会主義革命の挫折の意味
 二 ナショナリズム=「排除のメカニズム」の噴出
 三 現代の政治哲学の課題

初出一覧
解説 人類学と思想の現在 田辺繁治
索引

 

排除の構造―力の一般経済序説 (ちくま学芸文庫)

排除の構造―力の一般経済序説 (ちくま学芸文庫)

 
暴力のオントロギー

暴力のオントロギー