ノート:今村仁司『現代思想の基礎理論』(1992)

現代思想の基礎理論 (講談社学術文庫)

現代思想の基礎理論 (講談社学術文庫)

 

 (目次)
まえがき
プロローグ 思想の現在(1987)
 一 異なるものとの出会い
  脱ヨーロッパへの動き 思想のアヴァンギャルドとは何か 開かれた精神―異者への驚き 
 二 バロメーターとしての流行
  フランス物の流行とその反動 スピーディに展開する思想舞台 批判的読書のすすめ
 三 構造主義実存主義
  構造主義の登場 「近代」をめぐる対決―構造主義実存主義 近代最後の哲学者・サルトル 「主体」の崩壊 *フロイトニーチェマルクスレヴィ=ストロースラカン 「科学的知」としての構造主義
 四 ポスト構造主義
  スタティックな構造主義への反省 閉じた構造から「事−成り」の地平へ 「個体的自由」の新たな可能性
 五 思想の現在
  物を考えることの根本 「政治的なもの」に立ち向かう思想 

※完全に閉じた構造はない。ずれや差異(整理できない異物、両義性、第三項)が理解できない異なり・事成り・出来事として噴き出す。「中心ー周縁」的構造、あるいは二項対立からはみ出たもの。「正解」はない
※政治、実践哲学。サブジェクト近代の主体は権力の臣民、権力問題(フーコー)。ポストモダンの権力、いじめやハラスメントをどう越えるか 人間関係は政治、権力関係 ただし「程度」問題

1 構造主義
第一章 構造主義の可能性(1978)
 はじめに 
 一 構造論の認識論的相貌 *脱-実体主義・固定点思想(近代主客図式など。カッシーラー『シンボル形式の哲学』)は複合的関係態(構造)の隠蔽イデオロギー
 二 二項対立と変換 *レヴィ=ストロースの方法論、言語学・音韻論、神話と無意識の構造、音素と神話素、還元と変換、社会の精神分析 難点:循環の不在、経験主義的認識論
 三 構造・循環・剰余 *世界のすべて複合体の複合体、構造の弁証法、複合的統一体の生動性、循環 ポトラッチ型:バタイユの過剰エネルギー論、周期性循環、成長と死、生産と破壊 過剰は自然史的ア・プリオリ 近代社会の景気循環:好況と恐慌
 四 結論―過程と剰余 *剰余概念とマルクス まず剰余はモノではなくコト 労働過程、「過程ー剰余」構造 小閉鎖系を絶えず壊しながら大閉鎖系に吸収される構造、開放系システムへの転換は歴史的・偶然性性格、過程内剰余効果・地下水脈・両義性 深層・下部構造、自然史的必然性、近代経済は上部構造、ブローデルの文明論、K・ポランニーの経済社会学

第二章 構造主義革命とその限界(1982)
 はじめに *レヴィ=ストロース
 一 形式化の問題 *数量化ではなく抽象化 二重の形式化
 二 実践の問題 *認識論(知識論)と実践論 形式化の中で捨象・排除されるもの
 三 実践としての形式的思考 *アルチュセールの切断

第三章 ラカンとアルテュセール(1981)
 はじめに 
 一 「フロイトラカン」 *青年期ではなく成熟期のフロイトへ回帰、アルチュセールマルクスへの関係と同じ 同一思想家内の認識論的切断 フロイト理論の科学化 無視職とはヒトが人に成るプロセスの諸結果(自然的世界→人間的世界)※人間的「意味」、交通銀号、ロビンソン・クルーソー 自然と文化の間の「飛躍」「戦争」 自然の子→戦争(と諸結果)→人間的主体 前エディプス期:母子一体、イマジネール(想像的) エディプス期:父の介入、象徴秩序・言語・大人の世界 両段階を象徴的なものが支配 言語の二重化、無意識と言葉、ずれ・換喩・言い間違い・夢…抑圧・否認 無意識の「言語」、文化の法、ディスクールの形式構造の分析 アルチュセールマルクス読み、無意識に対して生産様式のメカニズム解明 ラカンの「重層的決定」「移動」「凝縮」「抑圧」をかぎつける「徴候学的読み方」 イデオロギーのメカニズム解明:イデオロギーは否認・再認の構造、中心のない自然の子が否認され人間的主体・自己を再認し中心を得る 「理論的」イデオロギー解明:マルクスの「経済学批判」は「経済学」イデオロギー精神分析、「歴史の大陸」を覆うイデオロギー層(社会・人間科学)を打ち払う精神分析
 二 認識論的切断 *バシュラール:認識論的障害物(イデオロギー)と認識論的切断 不可逆的断絶 マルクスイデオロギーと科学 後期マルクスへの着目はいかに? 見えるものと見えないもの(生産様式、構造) 重層的決定、構造因果性
 三 重層決定(シュールデテルナミシオン) *無意識は他者のディスクール、他者とは文化・社会の法 現実界・創造界・象徴界の複合的、重層決定(非線型) 単層的線型的ヘーゲル弁証法 フロイト夢分析、重層決定、凝縮、症候(徴候)=無意識、妥協、意味の横滑りや重なり ※地層の形成、構造 ※ニーチェの徴候 非言語的な社会現象に「重層決定」をいかに適用するか  アルチュセールの意義:マルクス理論とともに、フロイト=ラカン理論の社会科学への一般化
 四 無意識とイデオロギー *イデオロギーも、無意識同様、想像界象徴界の二層で、他者のディスクールイデオロギー=無意識 イデオロギーは個人の想像敵な表象、イデオロギー(大主体、言葉、社会、文化)は個人に呼びかけて主体へと従属させる
 結び
アルチュセール「矛盾と重層的決定」「唯物弁証法について」(『マルクスのために』平凡社ライブラリー)「イデオロギーと国家のイデオロギー装置」

2 記号論
第一章 認識論と記号論(1982)
 はじめに *3つの新科学︰マルクスの経済学批判、フロイト精神分析ソシュール言語学記号学 アルチュセールの認識論から記号論へ、記号論の認識論
 一 理論的実践過程 *実践は自然(材料)を人間が労働を通じて有用な生産物へ変形すること、社会的実践の複合的統一 理論構築も実践(生産)
 二 レクチュール *テクストを読み、新しいテクストを生み出すことは理論的実践 テクストの中の穴・空白、沈黙 スミスーマルクスアルチュセール 問いの立て直し 徴候的な読み取り、見える見えないの二重構造
 三 経済素(エコノメーム) *経済学における交換一元論、交換主義的機能主義ではなく、生産様式という構造 資本-賃労働関係(労働者・生産手段・資本家や領主)、資本制生産力(生産手段)、これらの差異と統一 ソシュールの言語記号と同様に、一般化は経済記号となり概念の把握とnともにその生産・創出・構築となる
 四 テクスチュール *可視と不可視の間、暗闇、潜在的テクスト クリステヴァのル・セミオティク(原記号態)

第二章 消費社会の記号論(1982)
 はじめに *ボードリヤール 消費社会の記号経済体制批判
 一 欲求から欲望へ *欲求の神話:主体−欲求−客体、ホモ・エコノミクス人間学、生物学的自然主義「欲求−充足(消費)」 自然主義人間学(生物的欲求)と理想主義人間学(文化・社会的欲求) 文明−未開社会像(豊かさ−飢餓・貧困、自画像) 余剰に基づく社会の普遍性(※犠牲=呪われた部分) 欲求神話と孤立的個人、欲求−生産−消費 欲望:社会的・文化的行為、欲望−消費、関係→物(世界)の記号化
 二 消費の論理 *欲望−モノ−消費、差異的コノテーション、記号と差異の論理 モノの4論理:効用・市場・贈与・地位身分、道具・商品・象徴・記号(消費) 消費社会の流動性(流行、地位、代理的消費行動)
 三 「記号のエコノミー」批判 *差異化と差別化、排除 使用・交換・記号価値、象徴交換(両義性) 文化システムの破壊、詩的実践、犠牲の論理、禁忌侵犯、象徴交換(消尽)
 四 批評と展望 *難点 シニフィアンシニフィエの実体化、それによる記号批判 生産と労働のパラダイム終了宣言 記号の水平的コミュニケーション限定の誤り、クリステヴァの努力 

第三章 政治経済批評から社会批評へ(1981)
 はじめに 
 一 政治経済批評 *『経済学批判』とは「政治経済批評ならびに、それについての観念形態(イデオロギー=経済学)批評」(政治経済・「学」・批評) 「ブルジョア経済学批判→マルクス主義経済学」のためのものではない(両方イデオロギー)、ルカーチ宇野弘蔵も絶対化の誤謬 「批評→観念形態→現実」の三層→「観念形態→現実」の二層 ※批評=根拠を問う哲学、メタ思考 現実認識とはイデオロギー(認識理論)であると同時に現実を隠蔽する両義性をもつ(※始まりは終わり、終わりは始まり。始まりの隠蔽、黄昏のフクロウ) この永続敵な脱構築が批評
 二 記号論の適用条件 *人間にとり世界(社会と自然すべて)は記号(※人間的意味。素の自然などない) 商品交換での交換価値・使用価値をシニフィアンシニフィエとする誤謬 イデオロギーを批評する契機を欠く マルクス資本論』記述の二重性(上着とリンネルの価値)、指示機能と意味の表出機能、商品交換における水平面と隠蔽される垂直面 二項対立の指示機能での無限円環的なアポリアを破る排除された第三項=貨幣という意味表出機能
 三 社会批評に向けて *経済学の「商品−貨幣」論理は社会的な「社会−記号」論理と一般化しうる 社会や文化の隠蔽や排除論理(貨幣や犠牲、スケープゴートなど)を暴きトレースし社会の存立構造を解明することが社会批評 ホーソン『緋文字』ヴァルネラビリティ、第三項排除、暴力的、社会形成のために排除しなければならないもの(〜ではないことが存在条件) 生きることの意味、人間とは何かの問いを追究する永続的な社会批評 ※水平的指示・意味と垂直的意味:明示的・伝達的、黙示的

3 マルクス
第一章 マルクス主義哲学の死と再生(1978)
 一 知的貧困の克服 *『マルクスのために』序文:フランス・マルクス主義の理論的貧困の克服を(後に観想主義を自己批判)、哲学が科学となる哲学的な死をめざす だが、バシュラール認識論通り、イデオロギーは永遠に科学を脅かす故に批判としての哲学は永遠
 二 認識論的研究 *歴史の科学(史的唯物論)とマルクスの哲学 歴史科学の現実的対象、その母体=歴史の現前化が決定的な課題 マルクスの哲学革命(認識論的革命)を発掘する 政治の課題、思想上の階級闘争
 三 哲学的実践の変更 *哲学も政治も道半ば
 四 マルクス主義の危機 *政治課題 マキャヴェリに沈潜

第二章 マルクスの労働観(1983)
 一 自明性の殻を破ること *「労働」概念の再検討
 二 対象化的労働・非対象化的労働 *具体的、生産のための労働(ワーク)と抽象的、労働のための労働(レイバー) 結合(※フーリエ用語)作用としての非対象化的労働 近代資本制経済になって二重化
 三 近代的労働の命運 *労働過程の分離、分散化
 四 フーリエマルクス *フーリエ「楽しい労働」(二重性、美的経験を含む) エンゲルスのサン=シモン主義(対象化主義、生産力主義)へ
 五 享受行為としての労働 *『経哲草稿』 労働の二側面:活動と享受、能動と受動、対象化と非対象化(享受) 享受は消費ではなく、楽しむ、美的活動
 六 自由と自立の可能性 *グルントリッセ『経済学批判要綱』にもフーリエ美学、『資本論』の二重労働論 労働美学

第三章 非対象化労働論(1983)
 一 労働への問い *自明か? 最大の取り違え:生産と労働
 二 第三項への還元 *60年代のマルクス:生産と労働の峻別、対象化労働・非対象化労働の峻別 一貫した労働二重性論 交換価値の第三項への還元、価値は具体的労働ではなく抽象的労働による産出物 「労働」と「商品−貨幣」の二重構造をもつ第三項還元 幾何学的還元(イデア論的)と化学的還元(実体主義的)、社会的還元(生産物交換における人間労働の等置)
 三 第三項還元と第三項排除 *価値形態論と社会的還元 個々の労働の、人間労働の一般化抽象化と、一商品の貨幣化は同一論理 第三項排除の論理 マルクスの経済学批判:①労働と価値の切断、かつ経済価値システムは非価値的労働に絶えず破られる ②資本制経済では労働が価値化し、経済歴史的、特殊歴史的問題となる そのメカニズム解明(×ヘーゲル主義や宇野理論などの実体主義) 商品世界の貨幣と労働世界の抽象的人間労働、上部・表層と下部・深層、2つの排除された第三項、貨幣は労働を代理し隠蔽(フェティシズム)※見えるものと見えないもの 経済学批判の仕事は価値幻想・フェティシズムが隠蔽した社会的論理の解明 排除された第三項の抽象的人間労働は非経済的・非価値的活動 マルクスが提起した労働時間論は未解明 ※モモの奪われた時間、禅。遊び(ホイジンガ、蕩尽、自由、対仕事・労働)

第四章 フェティシズム論からイデオロギー論へ(1975)
 一 序論―研究概観 *フランス・マルクス商品論研究 言語学との関連 価値発生のメカニズム探求 ボードリヤール、グー、ラトゥシュ ゴドリエ ドゥルーズ=ガタリ
 二 コントのフェティシズム論 *神学的・仮構的段階-形而上学的・抽象的段階-科学的・実証的段階 神学的段階:フェティシズム多神教一神教的段階 宗教・哲学・科学の歴史哲学的綜合 フェティシズムは人間の本源的態度、有機体と環境、対立傾向の円環的出現(※環境システム論)
 三 コントと一八世紀フランス思想 *啓蒙主義者:科学・文明の先行→堕落、自然宗教や理神論 ド・ブロスのフェティシズム
 四 コントとスミス *フェティシズムのメカニズム スミスとヒュームの天文学史、スミスの自然感情論・3つの「おどろき」ワンダーとフェティシズム、ワンダーが原始宗教と哲学を生む ※ヨーロッパにおける感情論の伝統
 五 スミス・コント・フォイエルバッハ *フォイエルバッハの宗教論、宗教を人間学・自然学に還元 依存感、恐怖と救済の感情、宗教の本質 
 六 コント型フェティシズム論の構造 *原始宗教、未開人の思考、本源的人間精神、フェティシズム 19世紀西欧の共通思考 本源的過程:人間→自然、抑圧的:自然→人間 
 七 コントとマルクス *資本制的「未開人の思考」論、理論的・実践的 マルクスによるフェティシズムのメカニズム:客観的には生産力の低さ、主観的には自然と社会に対する関係
 八 イデオロギー論へ *未開人の世界も近代市民社会も演劇的 物質的富とフェティシズムイデオロギーの生産

第五章 アルチュセール以後(1983)
 はじめに 
 一 開かれたマルクス(主義) *アルチュセールの画期性 クリステヴァ P.シュレル、可視性と不可視性の不可視の関係 マルクス主義教条主義の打破、経済学「批判」の真の意義 「後継者」デリダ D.ルクール、ヴィトゲンシュタインからマルクスへ 『科学者のための哲学講義』:科学と哲学の峻別、哲学の沈黙、知の正当性 フランスのフランクフルト学派・リオタール、アドルノへの傾倒、ハバーマスへの異論
 二 マルクス学の新動向 *ネグリ、『グルントリッセ』 ブロワ ミシェル・アンリ、労働実践、現象学モナドジー プチ、関係主義的行為論

補論 日本におけるマルクス研究の新動向(1978)
 はじめに *65-75年
 一 理論的研究
  1.疎外論的立場 *内田義彦『資本論の世界』1966:疎外論的人間=社会観(本来性)、蓄積論的歴史観 平田清明『経済学と歴史認識』1971、本源的共同体分析、共同体-市民社会社会主義 望月清司『マルクス歴史理論の研究』1973 疎外論とは何か、ヘーゲル由来の近代主客論図式の中にある 対社会重視(対自然消失) 闘争論の脱落
  2.物象化論的立場 *廣松渉 「物象化論」とはマルクスによる近代認識論地平の超克 主体の二重性と客体の二重性、四肢的連関構造、世界内存在構造 社会性と歴史性 ※西田幾多郎っぽい、具体性に欠け静態的?
  3.前二者への批判的立場 *花崎皐平『マルクスにおける科学と哲学』1969 廣松物象化論+内田主体性論
 二 思想史的研究
  1.初期マルクス研究 *良知力『ドイツ社会思想史研究』1966 廣松渉マルクス主義の成立過程』マルクスエンゲルスの分離へ
  2.『ドイツ・イデオロギー』の文献批判的研究 *廣松渉編纂『ドイツ・イデオロギー』1974
 三 七〇年代の新動向 *マルクスの自然観の探究

エピローグ 世界史の危機的転換期に(1992)
 一 社会主義革命の挫折の意味
 二 ナショナリズム=「排除のメカニズム」の噴出
 三 現代の政治哲学の課題

初出一覧
解説 人類学と思想の現在 田辺繁治
索引

 

排除の構造―力の一般経済序説 (ちくま学芸文庫)

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暴力のオントロギー

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