ノート:バタイユ『呪われた部分』

『呪われた部分』1949年

 

呪われた部分 (ちくま学芸文庫)

呪われた部分 (ちくま学芸文庫)

  
 
呪われた部分 (ジョルジュ・バタイユ著作集)

呪われた部分 (ジョルジュ・バタイユ著作集)

 

 (バタイユ1897生-1962没)

(目次)
緒言
 *生産以上に蕩尽こそめざす普遍経済 「蕩尽せよ」との呪詛 地球エネルギー全体の動き 生産的消費と非生産的消費 経済恐慌 不安の分析、精神の自由、過剰

第一部 基礎理論
(一)普遍経済の意味
 1 地球上のエネルギー流動に対する経済の依存性 *経済は全体の動きの中で把握する必要あり 戦争なども含めた普遍的エネルギーの流れとして理解すべき ※「経済」とは何か
 2 組織の成長に役立たぬ剰余エネルギーを利得なしに損耗する必要性
 3 機構すなわち有限的全体の貧困と生命界の資産過剰 *コーヒーの海中投棄 ※食糧の廃棄は確かに気が狂った行為。だが現に日々行われている *生物全体にとってエネルギーは常に過剰、欠乏は個々の生物の問題 ※全体平均と個々の貧富 *人間は自覚的で個々の問題に目が行く
 4 過剰エネルギーの破局的消費として見た戦争 *古代祭礼、ピラミッド建築、戦争などの蕩尽 ※戦争批判 *サービス産業による消費 ※IT産業 *文化による蕩尽? 極限経済から普遍経済へ、視点も倫理も移行 「アメリカ産業よ、利益追求をやめて商品をバラ撒け」 ※何のための利益追求か。不可視の全体・構造への奉仕?

(二)普遍経済の諸法則
 1 生化学エネルギーの過多と、成長 *生物の姿
 2 成長の限界 *源泉は太陽エネルギー、見返りを求めない富の降り注ぎ 今は有用性(役立つ、効果・見返り)重視の時代 ※「社会の役に立つ人に」、イエスは菩薩はそう考えたか? 太陽の富は全生物の有用性を遥かに超えた膨大な過剰
 3 圧力 *生命力 ※ニーチェの「力への意志」?
 4 圧力の第一効果。拡張 *生命圏の拡張
 5 圧力の第二効果。浪費あるいは奢侈 *充溢・飽和による平衡 成長・進化は生命力の複雑的浪費・奢侈形態
 6 自然の三つの奢侈。食、死、および有性生殖 *侵食、捕食 死・世代交代による種の存続こそ浪費・奢侈 有性生殖、繁殖の複雑化、エネルギー浪費の機会
 7 労働と技術による拡張、および人間の奢侈 *人間だけの営為によるエネルギーのさらなる蓄え、戦争その他の人間だけの「文化」行為による浪費と奢侈
 8 呪われた部分 *充溢し偏在する富への不公平感、エネルギーの解放たる戦争への反感は「富の蕩尽」の呪詛へ、過剰・剰余の浪費や奢侈は「呪われた部分」へ
 9 「個的」観点にたいする「普遍的」観点の対立 *個と普遍 種は不死 全体としての充溢、個々の不均等性 インドとアメリ
 10 普遍経済の解決法と「自意識」 *呪詛を除去する必要 意識改革 普遍経済のこれまでの歴史

第二部 歴史的資料1 消費社会
(一)アステカ族の供犠と戦争
 1 消費社会と企業社会 *近代社会と前近代社会 ※仕事と遊び 異なる人間観
 2 アステカ族の世界観における蕩尽 *神々の犠牲による、太陽・月・星々の誕生神話
 3 メキシコの人身御供 *戦争捕虜の心臓を生贄に 犠祭には他にも大量の生贄
 4 死刑執行人と生贄との親密関係 *アステカ人と死すべき捕虜たち
 5 戦争の宗教性 *聖なる戦い、戦士の使命は太陽神に敵戦士の血を捧げること、敵戦士の肉体は大地へ(食肉) 戦死も神の生贄となること
 6 宗教の優位から軍事効果の優位へ *宗教社会>軍事社会 内部の暴力の外部化 捕虜を王に見立てる犠祭
 7 供犠あるいは蕩尽 *供犠はモノの破壊による聖なる世界、内奥の復権 モノと化した奴隷の人間への復権 労働者と化した現代人 宗教の役割 人間的価値を帯びた動植物の破壊・無化が彼らの内的真実、人間の内的自由を取り戻す 暴力を解き放つ 内奥世界と現実世界、主体と客体、過度と節度、狂気と分別、陶酔と覚醒 蕩尽 ※モノとは人間が人間的意味を与え、モノと化しているもの。モノの本質ではなく人間の本質
 ※難解。遊びと労働、聖と俗 有用性・モノ・俗の破壊 聖は人間文化以前の世界、モノとしての破壊・蕩尽が内奥の次元(※自然?)を回復させる(※豊かさのリセット?) 儀式的形態が辛うじて危険から人間を守る
 8 神聖にして呪われたる生贄 *生贄は剰余、蕩尽される呪われた部分 有用なモノの破壊、聖別 お祭り騒ぎ ※身内の子どもの生贄:現実に反した倫理や価値にこそ、供犠・蕩尽の意味がある

(二)対抗的贈与「ポトラッチ」
 1 メキシコ社会における誇示的贈与の普遍的重要性 
 2 富裕者と祭式用浪費 *「商人」
 3 北西部アメリカ・インディアンの「ポトラッチ」
 4 「ポトラッチ」の理論(1) 権力「獲得」に帰着する「贈与」の逆理
 5 「ポトラッチ」の理論(2) 贈与の見かけ上の無意味性
 6 「ポトラッチ」の理論(3) 「身分」の獲得 *権威と権力の違い 遊びと仕事
 7 「ポトラッチ」の理論(4) 基本法
 8 「ポトラッチ」の理論(5) 多義性と矛盾
 9 「ポトラッチ」の理論(6) 奢侈と貧困

第三部 歴史的資料2 軍事企業社会と宗教企業社会
(一)征服社会―イスラム
 1 マホメット教にたいする意味付けのむずかしさ *服従と自由、聖戦
 2 聖遷(ヘジラ)以前のアラブ族の蕩尽的社会 *ポトラッチ的社会?
 3 草創期のイスラム社会、あるいは軍事企業に帰着した社会 *浪費の禁止 新共同体の建設・蓄積、拡大・聖戦
 4 後世のイスラム教、あるいは安定への復帰 *騎士道、トルバドゥール

(二)非武装社会―ラマ教
 1 平和な社会 *仏教徒 戦好きなネパールはヒンズー教
 2 近代チベットと、そのイギリス人編年史家 *チャールズ・ベル
 3 ダライ・ラマの純宗教的権力
 4 第13世ダライ・ラマの無力と反逆
 5 軍事編制画策にたいする僧侶の反逆
 6 超過量全体のラマ僧による蕩尽
 7 ラマ僧の経済的解明 *多数者の僧院生活という非生産的蕩尽

第四部 歴史的資料3  産業社会
(一)資本主義の起源と宗教改革
 1 プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 *ウェーバー
 2 中世の教義と慣行における経済 *中世経済は静態的で、富を非生産的蕩尽、資本主義経済は蓄積し、生産の躍動的増大をめざす 中世世界は分層的社会秩序体(僧侶・貴族・生産者、倫理・庇護・奉仕) 利子と時間 時間は神のものか、時間は自然の中にある キリスト教は自然律を否定、生産や労働は奉仕で、目的論的な静的なループ循環運動 資本主義は動的な進化運動 富の意味、投資、富の増殖 宗教活動は富の蕩尽
 3 ルターの倫理的立場
 4 カルヴァン主義 *ジュネーヴやオランダの商業ブルジョアの宗教 後世のマルクス同様、新階級の組織化と教義 利子獲得など近代商業倫理を神学的に正当化
 5 宗教改革が後世に及ぼした影響。生産界の自律性 *普遍的な個人主義、企業の自由を促進・拡大の原理 17世紀後半イギリスで現実化 中世経済の権威破壊、倫理的な突破の必要性 18世紀にフランクリンが信条表明「時は金なり」、中世的な非生産的蕩尽の粉砕と宗教的犠牲精神の払拭 内面精神か外部要求か

(二)ブルジョアの世界 ※難解
 1 営みによる内奥性追求の根本的矛盾 ※難解。資本主義は人間的なものを事物・商品・モノ(金)に還元 「聖杯」はただのモノ、形
 2 宗教改革マルクス主義の類似 *教会建築は無用な装飾の氾濫、商品や工場の反対物、蕩尽、有用性の破壊 「神の栄光」とは何か 中世世界への郷愁は「人間」の放棄、抗議 プロテスタントの中世世界への批判 ※カルヴィニズムによる世俗世界の解放、マルクスによる唯物論、聖性・内奥性の分離
 3 近代産業世界、或いはブルジョアの世界
 4 物質的障害の解消とマルクスの急進主義 *モノと人間の等価化 厳格性の精神
 5 封建制度と宗教の遺物
 6 共産主義、ならびに事物(もの)の有用性と人間との等値性

第五部 現代の資料
(一)ソヴィエトの産業化 ※ソ連擁護論?
 1 非共産主義社会の窮境
 2 共産主義にたいする知的姿勢
 3 蓄積と相反する労働運動
 4 蓄積にたいするロシア皇帝(ツアーリ)たちの無能力と共産主義の蓄積
 5 土地の「共有化」
 6 産業化の苛酷性にたいする諸批判の欠陥
 7 ロシア的問題と世界的問題の対立

(二)マーシャル計画
 1 戦争の脅威
 2 生産手段のあいだで行なわれる非軍事的競争の可能性
 3 マーシャル計画
 4 「普遍的」取引と「古典派」経済学の対立
 5 「普遍経済」の観点から見た、フランソワ・ペルーによる「普遍的」利益について
 6 ソヴィエトの圧力とマーシャル計画
 7 或いは「世界を変革」しうるものは戦争の脅威しかない
 8 「力学的平和」 
 9 アメリカ経済の完遂と結びついた人類の完遂
 10 富の最終目的の知覚と「自覚」

消費の概念(1933年) ※人はパンのみで生きるにあらず
 1 伝統的有用性原則の欠陥 *「有用」(役立つ、〜のために、有目的)とは何か 快楽の抑制? 放蕩息子と頭の固い親父
 2 損失の原理 *生産的消費(有用)と非生産的消費(奢侈、葬儀、戦争、祭典、記念碑、遊戯、見世物、芸術、非生殖・倒錯的性行為、目的なき蕩尽、即ちあらゆる人間的文化行為) 損失的消費:ダイア宝石は呪われた物質・排泄物、生贄・供犠、競技賭博、芸術・文学(死、笑い、供犠、損失を通じての創造) 
 3 生産、交換、および非生産的消費 *古典経済学の「物々交換」 モースのポトラッチ 「贈与」(蕩尽、破壊、消費、損失)からの「交換」 賭け、闘争的消費
 4 富裕階級の消費的機能 *商業経済、獲得のための交換 最終的には誇示的損失(蕩尽) 古代の権力者・有力者への富の集積は公共的祭礼・競技等の保護・指導に奉仕するため 中世キリスト教世界では施しや寄付へ 近代ブルジョアジーの富、嫉妬、虚栄心、偽善 自分のための獲得、富の隠蔽、消費への憎悪
 5 階級闘争 *「革命」の破壊は現代の公共的消費
 6 キリスト教と革命 *精神的蕩尽
 7 物的事象の非従属性 *人間は非生産的価値の創造をめざす

訳者あとがき

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・日本人の蕩尽 着倒れ、履き倒れ 着ない履かない消費
リオのカーニバルなど祭礼での蕩尽
ホイジンガ 遊び、非生産性

普遍経済とは総量としての富をどう消費するかという問題
 生産や蓄積、貧困は個々の問題
破壊・蕩尽手段として、戦争(イスラム)、資材(近代西欧)、宗教・文化(チベット

前資本主義経済と資本主義経済の違い
・資本主義経済とは、生産手段を所有する資本家が、労働者を雇用して商品を生産し利潤を追求する経済体制
※190821「資本主義」が初めて理解できた。これまでウェーバー的「勤勉」理解に偏り、原義が見えていなかった。
・奴隷(生存、生活)→農奴(貢納、奉公)→小作人・労働者
・生産手段の自由化(=相互交換、市場化、最適化)で、資本(投資・利子)、資材、労働力を効率よく組み合わせて最大利益を生み出し、それを元にさらなる利益を追求する無限運動(無駄なく蓄積・投資・運用、いわゆるプロテスタンティズム的勤勉)

蕩尽から内奥性へ 毒気に当てられた感じ

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人類は自然は生み出したものを消費しなければならない
 必要以上のものは「浪費」「剰余」 食糧など
そもそも人間的文化は非生産的浪費・剰余
 人間が作り出す新たなゴミ、廃棄物
 家電、車、原発はもちろん、コンピュータなどIT機器こそ最大のゴミ

人間的なものから逃れたくなる人間
 祭り、生贄 人間的意味・文化の無化
 忘我、恍惚、内奥性、脱文化、人間が名付ける前のもの・世界

 

贈与論 他二篇 (岩波文庫)

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