古事記のひみつ―歴史書の成立
- 作者: 三浦佑之
- 出版社/メーカー: 吉川弘文館
- 発売日: 2007/03/01
- メディア: 単行本
- クリック: 3回
- この商品を含むブログ (3件) を見る
タイトルは「ひみつ」とやわらかで、内容も平明に書かれてある。が、打ち込まれたくびきは太く深い。
はじめに「日本書紀」についてやや長い分析がある。古代王権は、中国風に律令と史書を両輪に律令国家として歩みだそうとしていた。律令は成った。一方、中国の「漢書」(紀・志・伝・表からなる)にならった「日本書」構想が挫折し、単独の「紀」としてなったのが「日本書・紀」。
「記紀神話」というが、両者はまるでちがう。たとえば、「書紀」には黄泉の国も出雲神話もない。世界観がちがう。「古事記」はムスヒ(生成)、「書紀」は陰陽が構成原理だ。また、ヤマトタケルの悲劇も「古事記」のえがく人物像で、「書紀」では天皇家にふさわしく欠ける所のない親子関係としてある。われわれが「日本神話」というとき、それは「古事記」の神話なのだ。
「古事記」は律令国家樹立のために編まれた史書ではない。自己証明としてあった「序」は平安初期のものなのである。「序」を切り離された「古事記」は果てしなくただよい始める。
著者は本文そのものから「古事記」の古さを語りだす。神を語る比喩から、母系系譜の残存から、また国家倫理にからみとられる以前の人物造形から。
だが、すでにおそい。定まる所を知らないもうひとつの日本が解き放たれてしまったのだ。