ノート:スタロバンスキー『ルソー 透明と障害』

 

ルソー 透明と障害 [新装版]

ルソー 透明と障害 [新装版]

 

 (目次)

 

序文

 

『学問芸術論』 *分裂、分断の言説 外見や言葉と内面との齟齬、虚偽・偽善、不正、悪

・「外観がわたしを罰したのだ」 *失われた幸福な幼年時代 ボセーでの櫛の歯事件 被告の立場 真実、無実は伝わらない、人間関係のディスコミュニケーション性 悪意なき誤解でも中傷、有罪 罰、傷跡 ヴェール 透明から障害へ

・分割された時間と透明の神話 *喪失した無垢で透明な始原・真実(幼年時代、子ども時代、自然状態、一般意思)への遡行、アンヴェール 理想論と現実論の相違認識

・歴史的知識と詩的幻想 *似て非なるものの混合

・グラウコス神 *変化、堕落 表面変化のみ(本質保持)か変質か 自分の魂に変化なく外部が変質 失われた自然と隠された自然 「自然人」概念の自分自身への適用 「自然」は夢想により内在的に見出される(モンテーニュ:人は自分の中に普遍人を見出す) 「人間は善」と「人間による堕落」との相克

・人間と神を弁明する弁神論 *悪は神でなく人間が生む(カント=カッシーラー) 人間の本質と、関係(歴史や社会)における罪 個人として善、集団として悪 反進歩、原初価値の復興

 

社会批判 *自然に反する社会への批判 個人と社会、事物・分業・疎外〜カント・ヘーゲルマルクスの先駆 人類史への道徳批判(歴史学でも人類学でもなく) グロチウス自然法への反対

・本源的な純潔 *労働や省察以前 道徳以前、真偽の区別以前 個人では幼年期の状態 楽園

・労働、省察、自尊心 *楽園の喪失 労働と道具の使用 自然に対する闘争 心理的な変化、自尊心 社会人へ 自我と他者 自己愛から利己心へ 存在と外見、虚偽、疎外 専制的社会での奴隷的平等

・革命による止揚 *エンゲルスの解釈、不平等論から契約論へのつながり 不平等論:平等から暴力の混乱へ、ホッブスの正反対 社会契約論:革命の前提なし、独立考察、ユートピア理論 現実として革命を誘発 JS註:自伝3作で政治論もすべて自身の「詩」作品

・教育による止揚 *カント・カッシーラーの解釈、自然と文化の相克と和解 教育論の介在 教育、法律

 

孤独 *何のため、誰のための歴史・社会批判か? 自分のため(マスターベーション)? 歴史か実存か、ヘーゲルかつキルケゴール 孤独なルソーと「敵」の大連合 異邦人 『学問芸術論』の成功が文学者か批判者かと自己に迫る(ヴォルテールの態度) 作品と生活 奇矯な言行一致 自己顕示欲と自己批判(演技、メタ演技、メタメタ演技、錯綜?) 晦冥とリピドー(サドマゾ)満足 パトスとロゴスの混乱 自己革命の傲慢とイロニー 推理する理性(悟性)ではなく直観的な理性 孤独=透明・自然への回帰 社会関係への攻撃は執着 透明になりたい 殉教者の栄光 死にいく者の最後の言葉(語る権利、真実の言葉) 『社会契約論』での透明な一般意思

・「いまや自己の意見を定めよう」 *「迫害される正義の人」の役割

・しかし統一は自然のものであろうか *ストア派賢者の演技(自己革命での服装) 論文応募へ啓示も教唆も自己不実、自己疎外 気まぐれ、分裂した性格・行動(「皮肉屋」「嘲笑家」?)

・内面の矛盾 *自己革命による本性の封印、無休 自縄自縛

・魔術 *仮面と役割 魔術的自己同一化 本性に反した高徳者という役柄への魔術的変身 外見と中身が違う(『学問芸術論』批判の自己内在化) 誠実という問題

 

ヴェールに被われた像 *『寓意断章』 「百科全書」の哲学者、ソクラテス

・キリスト *孤高で孤独な死 良心

・ガラテアの像 *『ピグマリオン』 自己と作品

・真実暴露の理論 *偶像破壊 外面と内面 ガラテアの自我と人の子の真理 透明な自我?

 

ラ・ヌーヴェル・エロイーズ *外界自然への自己の拡大同一化 障害の消滅、空気の透明化 『新エロイーズ』は明澄性に陶酔の中に見る目覚めた夢

・音楽と透明 *メロディー

・哀切の感情 *回想 失われた時代

・祭り *儀式でない即興の祭り 『ダランベールへの手紙』 劇場と野外 神殿・神像 

祭りのような、同時に演者・観客の演劇 同時に主権者・国民と同構造

・平等 *クララン共同体(エリゼ)での平等感 祭りの中の、感情的な平等 『社会契約論』は理念 立法者・ヴォルマール・人々の幸福の演出神としての幸福と歓喜

・経済 *自給自足の独立経済 金銭、中間的な交換はさけ、自ら直接的に生産・消費する 物々交換 楽譜写し 自然、ただし人為により完成された自然

・神格化 *世界を主宰し自己充足する者が神なら、ヴォルマール(啓蒙主義者ルソー)は神

・ジュリーの死 *自然と文化の綜合(カント)か フロイト解釈要? 幸福の成功か失敗か、挫折への誘惑と幸福の渇望との拮抗、罰の欲求と弁明の意志との共存 ジュリーの悲しみのヴェール、夫の不信心と偽善 結合と離別、意識の統一と離別、神との統一と離別 内面の直接的な神と隠れた神 自然、感覚的な被造物は神との障害・ヴェール(キリスト・福音書は不要) 死に旅立ったジュリー(神との直接交流)を覆うヴェール

 

誤解 *不在の真実でありたい 書くことと身を隠すこと 作品は思想ではなく人間を語るもの

・回帰 *誤解・決裂・離別と回帰(和解・帰還)、悲劇と感動 自己の非を弁明し、赦しを嘆願し、罰と愛撫を求めるサディズムマゾヒズム 人とのヴェールと誤解 愛されていることの確信がほしい ヒュームには不発 「敵」が友人に回帰するのを願っていた 『エミール』もルソーの弁証法(誤解・離別・償いの抱擁 )世界を描く 

・「ただ一言もいうことができずに」 *ノンバーバル

・徴候(シーニュ)の力 *ジュリーの願い:肉体・感覚を通さない直接的な交流(神と同じ。天使。魂と魂) 人間の限界、言語の必要 二重の表象・記号 『夢想』は読者が自分だから幸福 作品であれ手紙であれ読者は絶えず自分を誤解する、だから真実の弁明の必要あり、これの繰り返し、永久運動、ウロボロス 記号のない直接的な交流への志向(記譜法、エミールへの経験教育) 『不平等論』言語なき世界への回帰が動機(歴史論ではない。個人的動機) ※そのルソーから私たちはどれだけ近代を引き出しているか? 言語の端緒は感情、文章表現に長けたルソーは迫害者たちに無防備 矛盾的両価的表現・内容こそルソー 口語ではなく文語で、かつ言語以前へ 言葉ではなく徴候 葡萄の収穫祭、イギリス風の午前 秘奥のコミュニケーション(徴候と沈黙) バジール夫人との無言の恋 徴候の解釈は仲介であり間接的 ルソーは事物の意味は自分にはなく事物に属すると考える 否定的、悪意・敵意の徴候 透明か不透明か ジュネーブ城門吊橋、ズリエッタの片輪乳首、敵の手先ヒューム 自分は正気だという自己分析は他は真実との証明か 陰謀の徴候は確実、ただし原因は永久に不明 善意も悪意も即座に変転 植物標本の偶発的徴候による記憶の喚起 ルソーの行動の結果(例えば投石)は転回し、自身に向けた神の運命の徴候となる

・愛の交流 *性的肉感より夢想 受け入れられること(母の喪失以来拒絶されてきた生)への欲求 世界へ身を投じる情熱と、放蕩息子の過失を受け入れ、温情・罰・赦しを懇願する情熱

・エグジビシォニスム(自己顕示癖、露出症) *フロイト心理学? 『告白』での奇妙な不連続性 リボン事件、露出事件 マゾヒズム? 受け身で魔術による奇跡の出現を待つ幼児 倒錯 性の陶酔 『村の占者』『新エロイーズ』でのマゾヒズムからサディズム

・家庭教師 *三悪関係でのルソーの役割は教師、幸福・叡智の達人、誘惑者 省察と感覚の和解 官能的な喜びと苦痛、感動 倒錯的魔術的交換・変態、孤独な享受 ディオニソスソクラテスの誘惑 テレーズ:意識しない肉体、「埋め合わせ」

 

自伝の問題 *自伝の多様性 自己の明晰を他者に伝える手段、言語 錯乱状態後の弁明 真偽と善悪との意志的混同 平民の内面生活の普遍性 異邦人の身分だからこそ語れる権利

・いかにして自分を描きうるのか *肖像画と自画像 自己を語るルソーの独断的特権

・すべてを語ること *すべてを語ることで罪も矛盾もない 判断は読者に委ねる、自分は無罪、誤解は読者のもの すべての始まりや細部は語れない、無実も幸福も語れない 言語、『告白』は原初と未来の幸福の中間にある 発生論的な方法 主体・感動・言語の同一性、一体性(シュルレアリスム) 感情のつながりによる誤りのない記憶、回想 回想し追体験する自己の魂を物語る自伝、二重の自己 省察が自己を疎外する 道具ではない言語のあり方、近代文学ロマン主義)の誕生 

 

病 *パラノイアナルシシズム、自意識過剰 追放排除された孤独者かつ唯一の真善の所有者 迫害妄想の発展?(諸著作への用語転用、わな・陰謀・かれら・人々)

省察の有罪性 *『不平等論』で道具を生む省察は自然からの離別で堕落 『エミール』で受け入れ、理性、道徳の基礎 『新エロイーズ』で省察は世界をヴェールに包むが透明性は確保 『対話』で省察は決定的に悪に、比較する利己心の根源 省察を批判する省察、自己撞着をさらす 沈黙するJJ、批判するルソー 省察対感覚・感情、欺瞞、自己欺瞞、受動者と能動者との無限循環 デウス・エクス・マキナ 省察と感覚とは別、『エミール』の教師と弟子、神?と自由を奪われた者、『対話』の迫害者とJJの構図そのまま 自意識と意識、対自と即自?

・障害 *『不平等論』等で、自然の障害との対決で道具と省察が生まれた 『対話』で弾道学的精神力学、障害を突破するか停止するか 神のごとく魔術的に浸透するか排除され零の存在となるか 想像の世界への飛躍、自我空間 境界も障害もない恍惚の世界 陰謀・迫害による障害 自己解釈の可能性の排除 わな、謎、迷路

・沈黙 *真実を直接暴露した『告白』朗読会後の沈黙 沈黙は障害そのもの 敵の完全包囲網 後世での復権に託しそれまで原稿を保管、沈黙 神、国王、審判者への希望も水泡に帰す、沈黙

・無為 *行動は無益 独立、自給自足、ロビンソン・クルーソーの生活 行動の思わぬ結果への懸念 子どもの出生 拘束されない衝動に任せた大胆で勇気ある行動力 結果として栄光と迫害 散歩は逃避行、自然回帰、瞑想 歩行オートマティズム(自動作用、無意識動作)と夢想 

・植物的友情 *自己救済としての植物採集 強迫観念への気晴らし治療、暇つぶし 採集と写譜、忘我、精神を透明にするもの、空白を埋めるもの 植物は幸福の記憶の徴候

 

終身の禁錮 *迫害は欲求どおり? 禁錮は幸福? 両価的 迫害と禁錮

・実現された志向 *パラノイア 動機の多元性 偏狭と放棄の志向 捨てることで全能へ逆転 自由への意志 迫害が内面の幸福を高める 迫害の激しさがルソーの無実を証明する 自己の責任を黙視 ルソーの行動はすべて外部による強制、正確は常に善・無罪 自縄自縛、自己の二重性 自身の誕生による母の死、あるいは捨て子が罪か、不明 外部と自由の危険  ルソーが恐れるもの、意図を裏切る帰結、誤解

・二つの法廷 *ディドロ書簡、証人の必要 神への控訴 世間とは錯覚と誤解の危険 世間と神の法廷、有罪と無罪の評決

 

10

水晶の透明 *死んだジュリーと同じ透明さ 透明人間の夢想 水晶、水、自然 忘我と充溢、一体化 内奥の、あるいは表面にたゆたう内部感覚

・審判 *ヘーゲルの「美しい魂」(ノヴァーリス、ルソー)批判(自同律の不毛) ヘルダーリンディオニソスから樹木(自然との合一)へ 晩年テキストへの2つの評価 孤独なルソーを迫害する敵たちがいてこそもたらされる幸福 有罪の転嫁であり甘美な陶酔は友情など自己喪失の欺瞞的代償 人間の世界が忘れられない孤高の人 分割できない人格 神秘的ロマン主義者、社会的不正の告発者

・「こうしてわたしは地上でただひとりになってしまった」 *なおも語られる『夢想』の偏執的で執拗な言葉 敵の暗黒と自己の透明 錯乱の中の透明

 

あとがき

 

 

 

 

エミール〈上〉 (岩波文庫)

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  • 作者:ルソー
  • 発売日: 1962/05/16
  • メディア: 文庫
 

 

告白 上 (岩波文庫 青 622-8)

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孤独な散歩者の夢想 (光文社古典新訳文庫)

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